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“給料半減”時代の経済学(1)/高橋洋一(東洋大学教授)

2009年3月13日 VOICE

強烈なデフレ不況が襲い掛かる

 世界経済が大変な事態に陥ってしまったことは、いまさらいうまでもない。まさに「100年に一度」といわれるような危機になりつつある。
 
 アメリカでは巨額の財政資金を投じたり、中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)がさまざまな資産を買い上げるなど、これ以上の景気悪化を食い止めることに懸命の努力をしている。オバマ大統領は国民に深刻な経済危機に発展してしまう恐れを強調し、巨額の財政支出が必要であることを強く訴えている。これは政治判断として正しい。
 
 それでは、わが国はどうだろうか。麻生太郎首相も「100年に一度の危機だ」と公言しているが、はたして、その本気さはどの程度なのか。少なくとも、これまでの財政・金融政策をみるかぎり、真剣味はあまりにも感じられないというのが率直な感想である。
 
 たとえば、政府が1月19日に閣議決定、発表した2009年度の経済見通しによれば、国内総生産(GDP)の伸び率、つまり実質経済成長率はゼロ%となっている。結論を急げば、これはウソである。経済成長率は昨年10―12月が年率換算でマイナス12.7%であり、今年1―3月期も2桁のマイナスとなると予想されている。
 
 つまり、2009年度の経済成長率を前年比でみる場合、その発射台そのものが従来に比べて、非常に低くなっているのである。したがって仮に2009年4月以降の経済規模が前年と比べて横ばいだったとしても、実際には経済はマイナス成長になっている。
 
 しかも、経済の現状を踏まえるかぎり、「4月以降、横ばい」というのはあまりにも楽観的にすぎる。1月22日に日銀が政策決定会合で決定したマイナス2%という見通しも政府のそれと五十歩百歩の違いにすぎないといわざるをえない。政府も日銀も、インチキと批判されても仕方がない。
 
 実際には経済成長率はマイナス3〜4%程度となるだろう。そのうえ、アメリカのような景気悪化を食い止めるための積極的な政策が何も実行されていないのだから、日本経済の先行きはきわめて危ぶまれる。
 
 いまの状況を放置すると、いずれわが国の勤労者の給料は現在の半分に激減し、失業率は10%にまで跳ね上がるということにすらなりかねないと私は強い危機感を抱いている。
 
 こう述べると「何を根拠にそんな物騒なことをいうのか」と批判する向きもあるかもしれないが、じつは、根拠の1つは次のようなものである。
 
 「物価連動国債」という種類の国債がある。これは、将来の物価上昇率の予想を反映した市場利回りとなるように設計された国債である。物価(消費者物価指数)が、満期償還時に手元に戻ってくる投資元本額に反映される仕組みであり、購入時よりも満期償還時に物価が上昇していれば、その分、元本額は増える。物価上昇率を実質的な元本価値に反映させることによって、目減りを防ぐことになるわけである。
 
 裏返して説明すると、満期償還時に物価が低下していれば、どうなのか。物価の低下が反映されて元本額は少なくなる。物価が下がりつづける状況はデフレ経済のときである。したがって、デフレ局面では投資元本は少なくなってしまうのである。
 
 それでは投資しても損をしかねない。であれば、そんな物価上昇率を反映することがない通常の国債(物価上昇率がどうなろうと満期償還時に戻ってくる元本金額は変わらない国債)に投資したほうがよいという判断となるだろう。
 
 国債市場で日々売買されている国債の利回りには、そのような投資判断が映し出される。そこで、将来の物価見通しを反映した物価連動国債の利回りと、それを反映しない通常の国債の利回りを比較すれば、その2つの利回り水準の違いが国債市場で予想されている将来の物価上昇率を判断する手掛かりとなるのである。
 
 2つの利回りの違いは「ブレーク・イーブン・インフレーションレート(BEI)」と呼ばれている。日本国債10年物のBEIは、10年間のインフレ予想率を示す指標となるわけだが、いまどうなっているか。
 
 昨年9月15日に発生したリーマン・ブラザーズの倒産以後、BEIは激しく低下し、今年1月の時点では、マイナス2%程度という水準まで下がってしまった。これは、「1年に2%程度」の幅で物価が下がると国債市場が予想していることを意味している。
 
 1年に2%程度の幅で物価が下がりつづければ、10年後には物価は現在の水準から4分の1も下がってしまうという計算になる。いうまでもなく、強烈なデフレ不況が襲い掛かるということである。
 
 しかし、それだけではない。10年間で4分の1の物価下落ということを考えてみると、さすがに10年間、一貫して物価が下がりつづけるとは考えにくい。途中で物価の下落は底を打って反転することになるだろう。10年間で4分の1といっても、その過程で下落局面、上昇局面の両方があることを考えるならば、下落局面における物価下落率は4分の1ではなく、さらにひどく下がっているという見方が成立する。
 
 100年に一度の大恐慌なら3〜5年で物価が半分になるだろう。
 
 さらに、わが国の場合、10年のあいだには、消費税の税率が大幅に引き上げられているはずである。消費税率の引き上げは統計上、物価にはプラスに働く。
 
 そこまで勘案するならば、現在、国債市場で示唆している将来の物価下落率は4分の1などというレベルではなく、もっと激しいものということになるだろう。
 
 そうした経営環境の下で、企業は生き残りに死に物狂いになる。なにしろ、3〜5年で物価が半分に下がっていくということは、商品がこれまでと同じ数量だけ売れたとしても、売り上げが半分以上落ちるということを意味するからである。むろん、そんな不況下では製品はそこまで売れないから、つまり売り上げはさらに下がることになる。
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。

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