BSファン倶楽部
トップページへ

コラムバックナンバー

ログイン
会員登録はこちら
NHK−BSをもっともっと楽しめる、「BSファン倶楽部」で毎日更新中のコラム。その2005〜2006年度のバックナンバーがこちらでご覧いただけます。※記事に含まれる番組の放映日や告知情報は記事執筆時のものです。
コラム
木 THURSDAY
2006年度コラムリストへ

木:海外ドラマに夢中!

米国ドラマのタイトル曲=音楽と作曲者(後編)(by 岸川 靖)

No.141 2007.02.15

今週も先週に引き続きTVドラマのタイトル曲のお話です。
もちろん米国ドラマに関わるものなのですが、音楽については日本のドラマとは事情が大きく違う面がありますので、今回は、最初にそこについてふれておくことにします。

日本の場合、ドラマのテーマ(通常はオープニングに流れる曲の事を指しますが、オープニングが歌詞のある歌の場合は、それとは別に楽曲だけのものが作られています)と劇中のBGMの作曲者は同じ方が担当する場合が多いのですが、米国の場合はテーマと劇中音楽の担当が異なるケースが多いのです。番組によっては各話毎に作曲者が異なる場合も少なくありません。

例えば往年の名作『スパイ大作戦』(1966〜73)の、あのテンポの良いテーマは、ラロ・シフリンの作曲ですが、本編のBGMは彼を含む8名の作曲家が分担して担当しています。もちろん、定番の音楽は毎回使い回しです。ただし、その他の部分は、ストックではなく毎週作って録音していることも少なくありません。
日本の場合ですと、費用の節約もあって、連続ドラマの場合、最初に大まかにいくつかのパターンのBGMと、短いBGM(ブリッジと呼ばれます)などをまとめて録音し、毎週、その中から選曲しています。このとき、テーマ曲の軽快そうなアレンジや、スローテンポにしたバラード風など、いくつものパターンも収録されています(ただし、NHKの大河ドラマは例外的存在で、作曲家が1人であることを別にすれば、むしろ米国製ドラマと同じ手法で録音されているようです)。
ですから、サウンドトラック(サントラ)盤のCDなどを購入したときに、日本ではおなじみの曲が一通り入っていますが、海外では各話毎に作曲者が違うため、海外ドラマのサントラを購入しても、聴きたい曲が入っていない場合もあるのです。

さて、前置きが長くなりましたが本題です。今回は若手(といっても、先週紹介した作曲家に比べれば若いという意味です)の作曲家とテーマ曲の中から、ちょっとクセのある何人かを紹介していきましょう。

まず、80年代を代表する作品で、テーマや音楽が重要な要素だった作品と言えば、最近、リメイク映画が公開された『特捜刑事マイアミバイス』(1984〜89)に参加したヤン・ハマーでしょう。軽快なドラムとパーカッション、さらに電子機器のサウンドを取り入れたテーマは斬新で、新たなドラマを予感させるのに充分な音楽でした。
作曲者のヤン・ハマーは1948年生まれで、番組開始当時36歳。彼はチェコスロバキア生まれで、プラハ音楽院在学中にソ連(当時)によるプラハ侵攻(別名・プラハの春)がぼっ発し、米国へと移民した人物です。その後、クラシックを学び、オーケストラに参加するも脱退し、フリーのスタジオ・ミュージシャンとして活動し、83年『A Night in Heaven』(未)で映画音楽としてデビュー、その翌年にTVシリーズ『マイアミバイス』のテーマという大役を得たのです。
彼が手がけた『マイアミバイス』は、85年と86年のエミー賞でシリーズ部門作曲賞にノミネートされ(残念ながら受賞は逃しました)、サントラ盤からシングルカットされたテーマ曲は、インストゥルメンタルの曲としては異例のビルボード1位となりヒットを記録、グラミー賞を受賞しています。

さて、この『マイアミバイス』で一躍有名になったプロデューサーであり演出家にマイケル・マンがいます。いまでこそ映画界のベテラン監督ですが、当時はTVドラマ中心のプロデューサー兼、演出家でした。マンは『マイアミバイス』製作の前年に『ザ・キープ』(83)というホラー作品の映画を監督していますが、そのときに音楽に起用したのがタンジェリン・ドリームというドイツのロック・グループでした。このグループはシンセサイザー・ミュージックを中心に活躍していたグループで、そのサウンドに目をつけたのが誰かはわかりませんが、起用には当然マンの意見も入っていると考えられます。

タンジェリン・ドリームは、数人のミュージシャンの集まりでしたが、主要メンバーはその後も活躍を続け、クリストファー・フランクは『新アウター・リミッツ』(95〜02)、『バビロン5』(94〜98)の外伝などの作曲を担当しています。エドガー・フローズはTVドラマ『ストリート・ホーク』(85年/日本はビデオリリース)や、映画『ニア・ダーク 月夜の出来事』(87)にタンジェリン・ドリーム名で楽曲を提供しています。ヨハネス・シュメーリンクも後にリドリー・スコット監督の『レジェンド』(85)を手がけています。なお、このグループ自体は、メンバーの入れ替えは激しいでのすが、現在も活動を続けています。

さて、最近のTVドラマのテーマ曲で、活躍が目立っている作曲家といえば、『LOST』(04〜)、『エイリアス』(01〜06)、そして映画『ミッション・インポッシブル3』(06)など、一連のJJエイブラムズ監督作品に参加しているのマイケル・ジッキアーノでしょう。彼はピクサーのCGアニメ『Mr.インクレディブル』(04)の音楽も担当しています。『Mr.〜』は、テンポや曲調、そして管楽器の使い方が、60年代スパイ映画風だったので、公開当時、私は昔の作曲家に依頼したのかと思った程、達者でした。

彼はいまだ生年月日を明らかにしていませんが、彼自身「僕は子供の頃は『スター・ウォーズ』(77)の音楽を聴いて、音楽が物語を紡ぎ出しているのに気が付き、驚いた」と語っているので、かなり若いと思います。デビュー(『ジュロストワールド/ジュラシック・パーク』のテレビゲーム版の音楽を担当)は97年なので、キャリアは10年に満たない新人といえるでしょう。デビュー曲がテレビゲームというのは今風ですが、この楽曲も電子音楽ではなく、管弦楽用のものでシアトル交響楽団によって録音されています。
ジッキアーノは、来年公開予定の『スタートレック11』(仮題)の音楽を担当する(監督は、またしてもJJエイブラムス!)とアナウンスされており、今後、ますます成長していくことが予想されます。

TVドラマは作品の数だけテーマ曲があるわけで、それぞれの作品を代表する音楽は、それこそキリがありません。「あの曲の話はしないの?」といった疑問は数多く聞こえてきそうですが、分量の都合もありますので、今回はここまでとさせていただきます。
ともあれ、番組を観(み)ていなくても、一度は聴いた曲、おなじみの曲は数多く存在します。そうした音楽部分にも気をつけて番組を観ると、新たな楽しみがあるかもしれません。特に最近は、過去のテレビドラマを映画でリメイクすることも多く、作品に加えてそのテーマ曲が再登場する場合もあります。冒頭でふれた『スパイ大作戦』のテーマが、映画版リメイクである『ミッション・インポッシブル』シリーズで、さまざまなアレンジで繰り返し登場してきたのは皆さんご記憶でしょう。音楽担当は第1作が先週お話ししたダニー・エルフマン、第2作がハンス・ジマー(各賞を総なめした『ライオンキング』をはじめ、多くの映画をてがけるドイツ出身の作曲家で、現在の映画音楽の大物です)、第3作が先述のマイケル・ジッキアーノというそうそうたるメンバーですが、シフリンのテーマの印象は強烈で、3人それぞれの個性とどう調和させるのかも音楽的な聴きどころになっています。こうした事態は、今後も何度も起きることは間違いないでしょう。テレビドラマの音楽と侮っては損(?)をしますよ!

なお、近年、昔のTVドラマのサウンドトラックだけででなく、テーマ曲を集めたCDも数多くリリースされるようになりました(輸入版まで探せば、“こんな作品まで!”というものも少なくありません)。気になる方は是非、チェックしてみて下さい。聴くだけで、観ていた当時の思い出が浮かび上がるはずです・・・。



岸川 靖(きしかわ・おさむ) 岸川 靖(きしかわ・おさむ)

1957年、東京生まれ。編集者・ライター。雑誌「幻影城」編集を皮切りに執筆をはじめ、海外ドラマ、特撮映画等の著書多数。
前のコラムへ 2006年度コラムリストへ 次のコラムへ
BSオンライントップページへNHKオンライントップページへ