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【社説】

海自ソマリアへ 『変則派遣』を危惧する

2009年3月14日

 ソマリア沖の海賊対処へ海上自衛隊の護衛艦がきょう出港する。新法成立を待たず、ゴーサインを出した「変則派遣」である。国会での十分な議論も経ない、危うさを残す政府の決定を危惧(きぐ)する。

 海自のソマリア派遣をめぐって十三日、二つの動きがあった。

 護衛艦二隻の十四日派遣に向け浜田靖一防衛相が自衛隊法に基づく海上警備行動を発令。一方、閣議では、海賊対策のための自衛隊派遣を随時可能にする「海賊対処法案」を決定した。

 浜田防衛相自身が認める、当面の“応急措置”として、海警行動発令で派遣しておき、海賊対処法案の成立後、同法に基づく活動に切り替える−。今回、政府は二段階方式を採用した格好だ。

 国連決議に基づき各国が艦船を派遣するなど、取り締まりを強化している折である。年間二千隻の関係船舶が現地を通航する日本として何らかの貢献策を打ち出す必要に迫られている事情は分かる。

 問題なのは、現行法の枠内で海自派遣の答えを導き出した点だ。

 海警行動は海上保安庁による対処が難しいときに発令され、本来は日本近海での活動を想定したものだ。自民党国防族が言う「海上交通路」防衛論の是非も吟味しないまま、アフリカまで守備範囲とみなすのは乱暴過ぎる。国会での議論が足りていない。見切り発車には疑義がある。

 海警行動では日本関連の船舶しか警護できず、武器使用は正当防衛と緊急避難に限られる。こうした点を「不備」ととらえるからこそ、政府は対処法案をつくった。ただ、衆参ねじれ国会で早期成立はおぼつかない。それを理由に応急措置のはずの変則派遣をずるずると続けるようではいけない。

 対処法案は海賊船への船体射撃を容認するケースも想定する。正当防衛などとは違う初の「任務遂行のための武器使用」だ。国防族側には、これを突破口に武器使用基準を緩和させたいとの計算もちらつく。活動範囲や武器使用権限がなし崩しで拡大することがあってはならない。

 国会で十分な議論を尽くす必要がある。政府・与党は野党と真摯(しんし)に話し合わなければならない。

 警察活動とはいえ、海賊との銃撃戦で死傷者が出かねない環境下での任務だ。文民統制の観点からも、徹底したチェックが欠かせない。政府も国民への説明が不十分なままだ。西松建設事件の余波で、論戦の「空白」が続く。国民を蚊帳の外に置いてはいけない。

 

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