「新しい世紀において、経済発展にとって最も困難な1年になる」
中国の温家宝首相は国会に当たる全国人民代表大会(全人代)で、危機感をあらわにした。世界的な同時不況が長引くなか、中華人民共和国が10月に建国60周年を迎える今年はまさに試練の年になるだろう。
13日に閉幕した全人代で、中国は今年の国内総生産(GDP)の成長率目標を8%前後とすることを正式に決めた。「8%成長」は国内の安定のために必要なばかりでなく、世界経済の回復にも寄与する。
ところが、全人代期間中に発表された各種経済統計は早くも8%成長に黄信号を点滅させた。1―2月の工業生産は前年同期比3.8%増と過去最低の水準にとどまった。
2月の消費者物価指数(CPI)は6年2カ月ぶりのマイナスで、デフレ懸念が浮上している。2月の輸出は前年同月比25.7%減と4カ月連続のマイナスとなり、外需の落ち込みが一段と鮮明になった。
中国政府は今年前半に在庫調整を終え、4兆元(約57兆円)の景気刺激策をテコに8%成長を目指すシナリオだ。温首相は13日、新たな景気刺激策にも言及した。目標が達成できるよう期待したい。
その際、留意すべきなのは計画経済時代のような統制的な経済運営に逆戻りしないことだ。もし中国当局が輸出拡大に向け、人民元安を誘導するようなら、形を変えた保護主義との批判を招くだろう。
世界的な金融危機のあおりで雇用が失われ、新卒の大学生も就職難となるなど中国も治安問題が深刻になりつつある。だが、社会の安定を優先するあまり、統制を強化することには懸念を示さざるを得ない。
14日に1周年となるチベットでの騒乱は記憶に新しい。チベット自治区や周辺はいまも厳戒態勢にある。今年は5月に学生らによる民衆運動「五・四運動」90周年、6月に天安門事件20周年と人権や民主化などに絡んだ節目が続く。
共産党政権は最近になって、これまで以上にメディアへの規制を強化しているが、こうした手法では社会の不満は解消できない。むしろ報道の自由を拡大し、「開かれた中国」として還暦を迎えてほしい。