ソマリア沖で海賊から航行する船舶を守るために海上自衛隊を派遣する根拠となる法案がようやく閣議決定され、国会に提出された。それを見届ける形で浜田靖一防衛相は海上警備行動を発令し、護衛艦が14日に現地に向かう。
法案提出も、出港も、あまりに遅いが、海賊対処法案の成立は、危険な作業にあたる自衛官や海上保安官の心理的負担を軽減する。早期成立が望まれる。
海上警備行動の命令を受けて海自の護衛艦2隻が広島・呉基地を出港する。乗員は約400人とされ、海上保安官8人が同乗する。
防衛省・自衛隊は、海上警備行動で自衛艦をソマリア沖まで派遣するのは法的に無理があると抵抗した。このために海賊法案の閣議決定という「担保」を得るまでは出港させない態度をとり、派遣が遅れた。
海賊法案は海上警備行動の場合に比べ、武器使用基準を事実上、緩和する。接近船への船体射撃などを容認するが、現場から逃走した海賊を追跡しての射撃は認めない。
海賊の出方を法律で網羅するのは難しく、対応が現場の判断に委ねられる部分も残る。一般的には、海賊の行動を抑止し、自衛官の安全にもつながるのであれば、武器使用基準の緩和は必然である。
ソマリア沖での海賊対策への自衛艦派遣をめぐる国会論議は、2008年10月17日に民主党の長島昭久衆院議員が質問の形で提案し、麻生太郎首相が前向きの姿勢を示して始まった。5カ月を経て法案提出、護衛艦派遣となった。
これからは法案の国会審議とりわけ民主党の対応が焦点になる。民主党は、所属議員が国会質問で示した提案が実現するのだから、法案にも賛成するのが普通である。
民主党内にはもともと安全保障政策をめぐる意見対立がある。小沢一郎代表の秘書逮捕をめぐる混乱もあり、賛成で一本化できる見通しはない。逆に法案の技術的あるいは手続き上の問題点を指摘して反対の根拠とする意見もあるようだ。
その場合、与党は衆院での議決後60日に3分の2で再可決することになる。成立は遅れる。法案提出を受け、民主党内では対応を議論するのだろう。合意を目指した与野党協議を始めるよう期待する。
民主党が仮に反対のための反対や時間稼ぎ戦術をとれば、長島氏は重大な判断を迫られる。さらに重い判断を迫られるのは党執行部だろう。国際社会の現実を認識しているかどうかが問われるからだ。