先月から「人工衛星打ち上げ」を予告していた北朝鮮が、日付まで指定した。来月4日から8日までのいずれかの日に「銀河2号」なるロケットで実験通信衛星「光明星2号」を打ち上げるのだという。
北朝鮮はこれに伴い、船舶や航空機が接近すべきでない危険区域を設定し、国際海事機関(IMO)に通告した。それは秋田沖の日本海上と、はるか東方の太平洋上であり、それぞれロケットの1段目、2段目が落下するとの想定である。
すると「打ち上げ」は、日本列島を飛び越えるコースで行われるという話だろう。しかも、この「ロケット」は、北朝鮮の長距離弾道ミサイル「テポドン2号」と事実上同じものと見られる。ミサイルの弾頭部分に、不完全ではあっても人工衛星のような物体を積んで地球軌道に乗せさえすれば「打ち上げに成功した」と主張できる。
日本国民にとって、あってほしくない事態だ。しかし北朝鮮が国際宇宙条約にも加盟し、これだけ公然と準備を進めている以上、空騒ぎではあるまい。
私たちは先月末の時点で「北朝鮮が発射するのがミサイルであれ人工衛星であれ容認できない」と主張し、「発射阻止が重要だ」と指摘した。
まず、改めて強調しておきたい。北朝鮮の核実験を受けた国連安全保障理事会の制裁決議は「弾道ミサイル計画に関連するすべての活動」の停止を求めている。北朝鮮が発射するのが人工衛星であっても、弾道ミサイルと同じ技術を使っている以上、この決議に違反する。この見解で日米韓3国は一致している。発射阻止の試みをさらに続けるべきだ。米国務省が努力継続の意向を表明していることを歓迎する。
一方、中国やロシアは、「人工衛星でも決議違反」という解釈に同意していない。このままだと、北朝鮮が予告通りに人工衛星を打ち上げた場合、安保理による新たな制裁決議などはおぼつかない。すると北朝鮮は「衛星打ち上げ」の名を借りた実質的なミサイル実験を繰り返せることになってしまう。日米韓は中国、ロシアを含む国際社会の協調を得られるよう、論理的な整理と働きかけを進めてほしい。
原則論を言えば、宇宙の平和利用の権利はどの国にもある。しかし北朝鮮は、韓国でいま実施されている毎年恒例の米韓合同軍事演習を理由に、北朝鮮領空や周辺空域を通過する韓国民間機の安全を保証できないと突然宣言するなど、「平和」とは矛盾する行為を重ねてきた。これでは信頼は得られない。
北朝鮮は宇宙の平和利用を主張する前に、拒み続けてきたミサイル関連技術輸出規制(MTCR)に参加し、「ミサイル拡散の元凶」という国際的汚名を返上すべきであろう。
毎日新聞 2009年3月14日 東京朝刊