政府はソマリア沖などの海賊対策のための「海賊対処法案」を閣議決定し、国会に提出した。同時に浜田靖一防衛相がソマリア沖に海上自衛隊などを派遣するための海上警備行動を発令した。海警行動は法案成立までのつなぎ措置である。
法案は、海賊対策を一義的には海上保安庁の任務とし、海保で対応できない場合に自衛隊を派遣することができるとした。武器使用基準を現行法より緩和するとともに、外国船舶も保護対象となる。
政府・与党は今国会中の成立を目指すが、民主党は法案への賛否や対案を決めかねている。連立相手に想定している社民党と国民新党が自衛隊派遣に反対または慎重姿勢であることがその理由なのだろう。
法案で最大の焦点は武器使用基準の緩和だが、現行法で認められている正当防衛・緊急避難に加えて、海賊船が警告・威嚇射撃を無視して民間船に「著しく接近」してきた場合などに、海賊船を停止させるための危害射撃(船体射撃など)ができることになる。
現行法の海上警備行動では、日本の領海内で発生した不審船事件の場合、逃走する不審船への射撃が可能だが、法案では、自衛隊は海賊行為の現行犯以外で逃走する海賊船を追いかけて船体射撃することはできない。武器使用の緩和は限定的なものと言える。幅広い緩和を求めていた防衛省の一部には不満の声もあるようだが、警察行動とはいえ、武器使用をできる限り厳格にするのは当然である。
重要なのは、今回の緩和が自衛隊の海外活動全体の武器使用の無原則な拡大に結びつかないようにすることだ。自民党内には基準緩和を求める意見が根強い。国会審議でこの点を明確にするのは、緩和に慎重な与党・公明党の役割である。
海賊対策は日本の国益に合致しており、海賊が重武装している場合や海保による遠洋での継続的活動が困難なケースなどでは、自衛隊の派遣も有効な方策だ。
海警行動で海上自衛隊の護衛艦2隻が14日にソマリア沖に向けて出発する。しかし、日本周辺を想定した海警行動で長期間、海自をソマリア沖に派遣するのはやはり無理がある。なるべく短期間にしなければならない。もともと昨年の臨時国会で海賊対策の必要を主張したのは民主党議員だった。新法で与野党合意の素地はあるはずだ。知恵を尽くして有効な海賊対策を打ち立てるべきである。
ソマリア沖の海賊を根絶するには軍事的行動だけでは困難だ。外交面の対策が不可欠だ。海賊多発の背景には内戦で無政府状態が続くソマリアの国内事情があるのだから、政情改善に向けた国際協力がカギを握る。また、日本はマラッカ海峡の海賊封じ込めに貢献した実績も持っている。国会審議では、こうした総合的な対策について検討してもらいたい。
毎日新聞 2009年3月14日 東京朝刊