ふと、接客していると、何か、目の前に人の気配がした。
「・・・？瞳、やっぱ瞳じゃん」
私はその声に仰天した。
・・・翔！！！！
もう、脅かさないでよ・・・しかも今仕事中なんだからね。
「あ、来た！例の男の子、この人！・・・てか瞳ちゃん知り合い？」
「ううん、知り合いじゃ、ないよ？」
「俺は、瞳と知り合いだけど？」
・・・こいつ！！・・・
でも、少し嬉しかった・・・
翔でよかった。
てかこの店を知っていたことが信じられない。
「てか今日、カウンターでいい？また女子軍団がうるせーから」
翔は、仕方なくテラス席に居たらしい。
てか、馴れ馴れしいよ・・・何で?仕事中なのに。
「瞳、仕事終わったら付き合ってくれない？」
私は何も答えられなかった。
「瞳、なんか言ってよ」
「瞳ちゃん！答えてあげて、困らせないほうがいいよ・・・」
「分かりました。仕事終わりましたらでよろしいですか？」
「偉く他人行儀じゃん・・・何か俺最近避けられてない？すんげぇ気になってたんだよ、店にも顔出さないし、瑠美と逢った頃からちょっとお前変だぞ？」
本当、仕事中にだから来られたら困るって言ったのに。
「俺、何も知らなかった。瞳が此処で働いてたなんて、今日初めて知った。ここ前から俺の常連店なんだぜ。でも、俺が来る時いつも瞳はすれ違いで休み？今日は会えたけど、機嫌悪そうだし・・・」
私は、言葉を失いかけていた。
「今はちょっと暇だからいいけど・・・仕事中にそんな話しないでよ・・・」
「てか仕事中も何も、ろくに話せた事ないのに、どうしてそういうこと言うんだよ？お前本当最近おかしいぞ？」
「おかしいのはそっちだよ」
「俺が？俺が何した？」
「もう放っといて、仕事にならなくなる」
「俺、一応客なんだけど・・・てか、本当は此処で働きたいし」
！！！！！！！！！
いきなりこの人何言ってるの？！信じられない！
「仕事中に、そんな話しに来たの？」
「そうだよ、悪いか？」
・・・・私は言葉をなくした。
「瞳、お腹すいた。ココナッツカレーセット1つ」
「はい、ココナッツカレーセットですね。セットのお飲み物は？」
「アイスオレンジティー」
ったく、やっぱ洒落てるな・・・
「今日はいつものテラスじゃなくていいんですか？」
「勘弁してよーいつもいつも疲れるよ」
「あらっ・・・瞳ちゃんがいるからですか？」
「瞳は関係ないよ。ただ、女子どもがうるさいだけ・・・」
ってか私と同じようなこと言わないでよ・・・；；
「瞳、今日休みだから、遊びに行かない？」
「うん、分かった。遊びに行く」
「よかったぁ。ようやくいつもの瞳ちゃんだ。」
何で女子どもは、まだテラスで待ってるんだろう。
もう中に入ってるっていうのに、気づいてないみたい。
翔をかくまってやりたくなった。
でも、何となく、女子どもが大人しい？
ていうより、ファンの交流会みたいに見えた。
みんなが助け合うっていうかそんな感じ。
仲良く皆でお茶してるみたい。
ホッとした。
「あの、瞳をよろしくできますか？」
「もちろんですよ。瞳は私よりも全然偉いんですから。何せフロアリーダーなんですからね。フロアでは一番長いんです。あ、瞳って言っちゃった・・・」
「全然いいよ。翔、もうちょっとでできるから待っててね」
カレーはシェフが作るけど、あとのサラダなどの盛り付けは私がする。
「翔さん、よかったですね、瞳に逢えて。」
「そうですよ・・・中々逢いに来てくれないから・・・店にも来ないし、どうしちゃったんだろうと思ってました。けど元気そうで何よりですよ、元気ないのかと思ってたから。」
「まぁ瞳は仕事の鬼みたいなものですから」
「・・・それはまずいな・・・（苦笑）」
「私は習い事とかちゃんとやってるもん♪」
「習い事なんて、勉強だろ？同じだよ。外に出なきゃ」
「趣味も教養も勉強も一緒だもん」
「これだ・・・」
「はいはいはい、お待たせしました。ココナッツカレーセットです」
「・・・（苦笑）本当だな・・・」
俺は、瞳が心配で仕方なかったんだよ。
分かってくれてるのかな。。。
まぁいい、少しずつ教えてやろう。
やっぱここのココナツカレーは最高だな。
いつ来てもおいしいカレーが食えるのは最高だ。
「翔・・・6時ごろになっちゃうかもしれないけど、それまで待てそう？」
「そんなになるのか？おお、待つよ」
・・・ま、待つの？
凄いバイタリティ・・・
若いんだから海で遊ぶとかしないんだ？
珍しい・・・
サーファー系ヒップホップダンサーのくせして。
「いいよちょっとあとで女子どもと話して来るから」
何だ結局そっちか。
俺だって、やる時ゃやるさ？笑
翔は本当にお腹すかせてるみたいで、一気にココナツカレーにがっつく。ココナツカレーには、簡単にフルーツとサラダがついていた。
「そんな食べ方してると太っちゃうよ、きれいな筋肉質の体がもったいない」
「何だよそれー笑 お前俺のこと今からかっただろー笑」
「からかってませーんーーー笑」
本当に、翔は笑顔がやんちゃだ。
見ていて子犬みたいで和む。
こういうところが、女の子たちの評判なんだろうなあ。
「ゆっくり食べてよ、私まだまだ終わらないから。」
「サンキュー」
瞳はやっぱりこういう店が似合う。
本当だったらショーパブで働いてもらいたかった。
それくらいに、・・・
でもやっぱり、夜はきついよな。
本当は、どうしたいんだろうな、瞳自身は。
瞳の意見を聞いてみたくなった。
でも今は、瞳の事を重視したい。
瞳は働き者なんだな。
きっと家族がそういうあれなんだろう。
温かい家庭で育ったっていう感じがする。
それに比べ俺の両親は。
父親は週1度帰ってくるか来ないか。
その代わり母親は面倒を見てくれたけど。
父親は社長で忙しいから仕方ない。
会社に父親の部屋があって、そこで寝泊りする生活。
しかもそこに、お手伝いさんつき。
自分にはそんな生活なんて考えられなかった。
小学生の頃は片親っていじめられて。
片親じゃないのに。
父親はあまり帰って来れないだけなのに。
俺は父親を憎いとさえ感じたことがある。
いまは大人になってようやく自分のしたいことができるようになった。
こんな暖かいカフェで働けるなんて瞳は幸せだな。
それに比べて、俺は本当にフリーターと同じような生活だな。
なんせ瞳はリーダーっていうことはもう社員なんだな。
俺からしたら、夢みたいな世界だ。
「翔、ごはん終わった？」
「おう」
「じゃぁ、これ、あの子達に持ってってあげてくれない？あとで私たちも行くから」
「これどうしたんだ？」
「私が焼いたの」
妙子がガトーショコラーを焼いたようだ。
「おいしそうでしょ。翔さんにも後であげるね」
翔は半分冷や汗かきながら、女子どもに近づいていく。
今日は何だか、女子どもが礼儀正しい。
「翔さん、こんにちは」
女子どもが、どうやら、引き下がっていく。
「これ、食べてください、って、店の人から預かったので・・・」
「翔さん、ごめんなさい、今まで・・・」
「そんな言葉聞きたくないよ」
俺は、すぐに戻った。
（さすが。。。翔さん・・・ありがとうございます。お優しいんですね）
皆はもっともっと好きになった。
そして、カウンターに戻ってきた翔に、瞳はオレンジティーとガトーショコラを出す。
本当はガトーショコラはまかないのようなものだから出せないのだが。
翔にはいつも特別なのだ。
そして、食後のデザートも出す。食後のデザートにはフランボワーズムース。
「翔・・・本当に此処で働きたい？」
「お、おう・・・」
「じゃぁ、付き合ってくれる？」
「え？」
「だから、できたお料理を、所定のところに運んでってほしいの。今日から少しずつ店に出てみる？私が教えるよ」
「・・・・・・迷惑じゃないのか？」
「翔、さっき働きたいって言ったじゃん」
「言ったけど・・・」
「じゃぁ決まりね。女子どもを喜ばせてあげようよ！」
妙子も賛成。
そして、オーナーに掛け合ったらOKが出たので、早速。
「エプロンとかないの？」
「あ、今日は急だったから、次回からもし来てくれるんだったら、用意しとくよ」
妙子がそう言う。
丁度昼下がりのお茶タイムで、かなり混んできたのでドリンク作りやデザートなどの盛り付けなどに回らなきゃいけない瞳には、翔はもってこいのウエイター役だった。
持ち前の人の良さと明るさで、翔は、どんどん瞳の相談に乗る。
「翔さん、瞳といいコンビだね。よかった・・・瞳も幸せそうだし」
瞳の笑顔が、幸せを物語っていた。