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きょうの社説 2009年3月13日
◎愛本橋の復元検討 富山東部の「加賀藩」にも光を
加賀藩五代藩主、前田綱紀が黒部川に架橋し、江戸期は「天下の名橋」とうたわれた愛
本橋について、黒部市が国、富山県などに働きかけ、復元をめざすことになった。当時の橋は両側から大木を突き出し、中央部でつなぐ全長六十三メートルの「刎橋(はねばし)」で、世界的にも例がなく、加賀藩の土木技術の象徴とされた。復元への道のりは容易でないだろうが、機運が盛り上がれば富山県東部の加賀藩の歴史に光を当てることにもなる。金沢市と富山県西部六市で加賀藩をテーマにした広域観光圏づくりが進んでいるが、富 山藩(富山市域とほぼ一致)を囲む形で加賀藩領が東に広がっていたことは石川の人々には意外と知られていない。富山県東部の歴史を知れば、加賀藩のすそ野の広がりや両県が共通の土壌を有していることがより強く実感できるだろう。愛本橋復元の夢を石川県も共有したい。 愛本橋は江戸から初めてお国入りした綱紀が黒部川の氾濫に見舞われる住民の窮状を知 り、架橋を命じたとされる。急流で橋脚を立てることができないため、大木を両岸から突き出して建造された。岩国の錦帯橋(きんたいきょう)、甲斐の猿橋(さるはし)とともに「日本三大奇橋」と称されたが、明治期に木製アーチ橋に変わり、現在は元の位置から少し下流に十二代目の橋が架かっている。 地元の「うなづき友学館」には旧愛本橋が縮尺二分の一で復元されており、加賀藩の技 術の粋を伝えるその偉容は必見の価値がある。黒部市では北陸新幹線開業へ向けて復元の可能性を探るという。 富山県東部にはこのほか、加賀藩最大の関所「境関所跡」(朝日町)や大名行列を迎え た街道並木「御前林(ごぜんばやし)」(入善町、黒部市境)、異国船に備えて海岸線に築造した藩最大級の砲台「生地(いくじ)台場」(黒部市)など、「百万石」の大藩をしのぶ貴重な遺産が残る。 ふるさと教育の格好の素材でもあるが、これらの史跡は点としての存在にとどまり、加 賀藩の歴史を生かす広域連携の中では十分に位置づけられていない印象を受ける。行政の区切りにとらわれることなく、加賀藩の遺産に磨きをかける運動を広げていきたい。
◎中国の景気対策 汚職防止が隠れた課題
中国の国会である全国人民代表大会(全人代)が十三日に閉幕し、大規模な公共投資を
柱にした景気対策が本格的に実施されることになる。今後二年間の公共投資額は四兆元(約五十八兆円)規模とされ、中国政府が公約する8%程度の経済成長を支えることが期待されているが、公共事業を執行する上で中国共産党・政府指導部が神経をとがらせているのは汚職事件の多さである。深刻な官僚腐敗で公共事業による内需拡大効果が削がれ、国民の不満が一層高まって社会不安が増大しかねないことに留意したい。胡錦濤政権は厳しい姿勢で公務員の汚職防止に取り組んでいる。しかし、不正は依然深 刻なことが中国最高人民検察院(最高検)の活動報告で明らかになった。全人代で行われた報告では、昨年一年間に発覚した汚職・横領事件は約三万三千五百件に上り、起訴された公務員は前年比10%増の約三万三千九百人に達している。 昨年は取り締まる側の最高人民法院副院長まで汚職で解雇されるなど、幹部も含めた官 僚腐敗に国民の不満は高まる一方であり、全人代の開幕に合わせ、地方政府の役人の不正を「直訴」する国民が多数北京を訪れたという。 四兆元規模の景気刺激策の財源確保のため、今年は二千億元(約二兆九千億円)の地方 債も発行される計画である。こうした大型の財政出動に伴って汚職や不正な資金流用などがさらに増えることが懸念され、温家宝首相は全人代での政府活動報告の中で「公共投資拡大の機会を悪用して私利を図ることは許されない」と、きつくクギをさしている。 予算に対する国民の視線も厳しくなっており、四兆元の内訳を詳細に公表するよう求め る声も聞かれる。そうした声に政府は答えるふうではないが、温家宝首相が言う通り、社会の安定には経済発展とともに「清廉な政府」の実現が不可欠である。公共事業用の巨額資金が公正に使用されるかどうかは、社会の安定と景気回復に少なからぬ影響を及ぼすと見られており、景気対策で中国政府の統治力も試されるといえる。
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