不法入国で国外退去を命じられ、在留特別許可を求めているフィリピン人のカルデロン・アランさん(36)=埼玉県蕨市=一家。東京入国管理局は夫妻に対し13日までに自主的に帰国する意思を示さなければ、中学1年の長女のり子さん(13)を含め親子3人を送還すると通告した。何が問題なのか。一家と国の言い分をまとめた。
◆法務省
夫妻が他人名義の旅券で不法入国した悪質性を重視する。06年11月、一家に退去強制命令が出たが、当時は小学生で自立困難だったのり子さんが中学に進学し、日本での勉強を望んでいるとして、近隣に住む親類が育てる前提でのり子さんに限り許可する選択肢を加えた。
在留特別許可に基準はなく、家族状況や生活態度などから法相が裁量で決める。07年は7388人。日本人と結婚した例が多く、一家のように退去強制命令の判決が確定した上での許可はまれだ。
東京入管では07年2月、同様に判決が確定した群馬県高崎市のイラン人一家のうち短大に合格した長女のみを許可した。法務省はこの事例を念頭に検討。森英介法相は11日の衆院法務委員会で「最大限の配慮をした」と述べた。
◆一家
のり子さんには「日本で親友と一緒にダンスの先生になりたい」という夢がある。夫妻は不法入国を反省したうえで「保護が必要な13歳の子を置いて帰れない」と3人での在留を求めている。
送還された子供を追跡調査したリポートをまとめた、NPO在日外国人教育生活相談センター(横浜市)の竹川真理子センター長は懸念する。「15年間、まじめに生活してきた実績をみるべきだ。子供時代に送還すると双方の言葉も十分に身に着かず、心に壁ができる。親子を引き離すのは子どもの権利条約に違反する」
一家の代理人の渡辺彰悟弁護士も「のり子さんだけ在留を認めても、家族のまとまりを社会と国が保護することを定めた国際人権規約に反する」と話した。【石川淳一、稲田佳代】
毎日新聞 2009年3月12日 21時30分