災害医療、薬の確保に課題
地震などの大規模な災害が発生した時、患者の治療に必要な薬をどう確保するか―。災害に伴う道路や線路の寸断は、災害医療の現場で必要な薬の流通機能をも直撃する。山形県立救命救急センター診療部長の森野一真医師は、「どこで、どんな薬が不足しているか。どこに集めて、誰がどう運ぶか。実効性のある方法で薬の確保を図ることが重要。薬は現場に流れないと使えない」と強調する。日本製薬工業協会が3月12日、東京都内で開いたメディアフォーラムで語った。【関連記事】
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救急医療や災害医療の専門家である森野医師。大地震や航空機・列車事故などの際に、現地に迅速に駆け付けて救急治療を行う災害派遣医療チーム、DMAT(Disaster Medical Assistance Team)の一員として、これまで2007年の新潟県中越沖地震や08年の岩手・宮城内陸地震で活動した。森野医師は、こうした災害医療の現場で、薬の確保がしばしば問題になったと語る。
新潟県中越沖地震では、破傷風トキソイドが不足した。森野医師は状況を派遣先の災害拠点病院のスタッフに伝えたが、「誰が、どこにどう連絡したらいいのか分からない状況だった」という。県に対応を求めるため連絡を試みたが、なかなか連絡がつかない。いざ連絡がついても、「県の担当者も、おそらくかなり混乱していた。どこへ、どう調整したらいいのか分からないようだった」。結局、森野医師らが支援に当たっていた現地の災害拠点病院に汚染創を伴った患者らを集め、そこで必要か否かを判断して、トキソイドを使った。
医療チームが現場に持ち込んだ薬以外のものが必要になる場合もあった。中越沖地震の際、森野医師らは急性期の治療を想定して薬を集め、現場に向かった。しかし、災害時の急性期の治療は比較的短時間で終わり、その後はむしろ「いつもの診療」が必要になった。だが、普段の診療で使う薬は持って来ておらず、「調達が難しかった」という。
さらに森野医師が危惧(きぐ)しているのは、病院内の薬の在庫の少なさだ。「病院では今、経営の『締め付け』が厳しく、薬の在庫を極力少なくしようとしている。そのため、いざ災害が起こると、病院内の薬はすぐになくなってしまう」という。
また、被災地外から救援物資として流れ込む薬を、適切に医療現場に流通させることも重要だ。森野医師は「阪神・淡路大震災でも、薬は救援物資として被災地に送り込まれた。だが、これを流通させられなかったという反省がある」と語る。
その上で森野医師は、災害時の薬の供給について、備蓄(Reserves)、迅速性(Rapid)、実現性(Reality)、能動的運搬(Dynamic delivery system)、流通(Distribution System)の“R3D2”が必要だと指摘。「しっかり薬が備蓄されていること。迅速に運べること。頭の中で考えるだけでなく、実際に『できる』こと。運搬し、流通させるシステムがあること」が重要だと訴えた。
更新:2009/03/13 16:45 キャリアブレイン
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