宮崎市内を中心に、自動車でイカ焼きを販売する斉藤多美夫さん(60)=宮崎県西都市=が、客に「イカ様券」と称したポイントカードを配っている。おやじギャグさく裂のネーミング。受け取った人の中には思わずまゆをひそめる客もいるが、次の瞬間、意味が分かってニヤッとなる。カードの裏面に「振り込め詐欺」の手口を書いているからだ。
<(1)オレオレ詐欺……子供、孫になりすまし振り込ませます
(2)お金貸します……保証金、調査料を振り込ませます
(3)架空請求……債権があると言って振り込ませます
電話で振り込んでといわれたら、まず詐欺と思ってください>
ポイントカードを10枚集めると、イカ焼き1枚と交換できる。詐欺の「いかさま」をかけたしゃれだが、実体験を基に生まれたアイデアで、後を絶たない振り込め詐欺被害を憂える一人でもある。
斉藤さんは県警OB。同県日向市内の駐在所に勤務していた20年ほど前、こんな体験をした--。
お年寄りの女性が「1万円をだまし取られた」と泣きそうな顔で駐在所に駆け込んできた。屋根瓦の補修代として支払った頭金だという。女性は、知的障害を抱える40代の息子と2人暮らし。わずかな年金と、息子が空き缶回収で得る1日500円の収入が親子の生活を支えていた。
「1万円でも私たちには大切な生活費です」。途方に暮れる女性。斉藤さんは怒りを覚え、2カ月後にだまし取った男を突き止めて被害を弁償させた。
「まじめに努力している人が詐欺の被害に遭うのは許せない。イカ焼き販売の仕事を通して、被害に気をつけるよう呼びかけたい」と斉藤さんは言う。
1枚300円。手渡した「イカ様券」は、すでに5000枚を超えたという。【川上珠実】
毎日新聞 2009年3月10日 10時18分(最終更新 3月10日 14時49分)