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【社説】

農地法改正 消費者も田畑に関心を

2009年3月13日

 農地は有効利用すべきだと、株式会社参入の門戸を大きく開く農地法改正案が、国会に提出された。「戦後農地制度の大転換」が目指すのは、自給率の向上だ。消費者も無関心ではいられない。

 一九五二年に制定された農地法は、田畑として維持すべき農地の乱開発を戒める法律だ。

 そのために、農地の所有者イコール実際の耕作者という「自作農主義」を取ってきた。

 ところが、経済成長に伴って自作農は減り続け、農家の高齢化や米価の下落が進む中、耕作放棄地は全国で三十九万ヘクタールと、埼玉県の面積に匹敵するまで増えた。

 全国農業会議所の調査では、所有者が地元を離れてしまった「不在地主農地」も二十万ヘクタールを数え、東京都の広さに相当する。

 厳しく規制されているにもかかわらず、駐車場や資材置き場などへの違反転用は年間約一万件と、後を絶たない。

 一方、農地法の存在が、新規就農希望者の農地取得や、法人営農の大規模化を阻むケースも少なくない。規模拡大と新たな資本の流入を促して耕作放棄地を解消し、農業の基礎体力を強くしないと、自給率向上は望めない。

 改正農地法が目指すのは、自作農主義の呪縛(じゅばく)を解いて「所有」と「利用」を切り離し、株式会社や特定非営利活動法人などが農地を借りやすくすることだ。

 審議中の改正案では、株式会社も原則自由に農地を借りられることになる。最長二十年だった農地の賃借契約期間を五十年に延ばし、親から引き継いだ農地を誰かに貸した場合にも、相続税の納税猶予を受けられるようにする。

 株式会社に参入の門戸を開くに当たって心配されるのが、違反転用の増加である。法人が違反転用した場合の罰金は「三百万円以下」から「一億円以下」に引き上げられる。だが、罰則の強化だけでは違反転用はなくならない。

 「安全な食の供給」という明確な意思のもと、転用許可を審査する農業委員会や自治体が監視を強め、新制度を一層厳格に運用すべきは言うまでもない。

 これを機に、守るべき農地の線引きをし直すとともに、農地の「利用」や「転用」について農家以外の住民の意見を広く求める懇談会を地域に設置してはどうだろう。改正農地法が守るべきは「農家」ではなく「農業」で、その恵みを受けるのは、食の安全を求める地域の消費者なのだから。

 

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