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“高橋名人”という社会現象――高橋利幸氏、ファミコンブームを振り返る(前編) (4/5)
[堀内彰宏,Business Media 誠]
視聴率が1.5倍になった
高橋 次は媒体関係、俗にいうテレビ、ラジオ、映画です。1985年の全国キャラバンで、8月13日に私が新潟でイベントをやっている時、「高橋、お前明日何やってる」と会社から電話がありまして、「今日終わったら東京帰っているから、明日はうちでゆっくりしていますけど。休みですし」と言ったら、「東京にいるんだな、じゃあ6時に東京タワーの下に来てくれ」と言われて詳しく聞いたら、「おはようスタジオ※」だったんですね。「疲れているのに大変なんですよ。毛利君もう帰ってるでしょ、東京に」と言ったら、「お前バイトにやらすのか」と言われて、「分かりました」ということで私が出たんです。
出演した翌週、おはようスタジオ水曜日担当のディレクターさんが飛んできて「視聴率が1.5倍くらいになった」と言うんです。「毎週やってくれないか」と依頼されたのですが、「いや無理です」と断りました。当時各メーカーさんが出していた毎年のソフト数を数えてもらえれば分かるのですが、ハドソンなど数社は5本出しているのですが、ほかの会社は3本なんですね。これはその年ごとのしばりがあったのです。「(ソフトを1年に)5本より多く出すと、ソフトの質が悪くなるのではないか」という懸念があったようです。任天堂さんはアタリ・ショック※のことを気にしていて、「劣悪なソフトを多く出してしまえば、絶対アタリ・ショックみたいなものが起きる」ということで、各ソフトハウスにしばりを与えて、面白いもの、それも任天堂が企画書を見て面白いと思えるものしか販売を許可しなかったんですね。毎年5本ということは、宣伝部としては1本のソフトで2〜3カ月引っ張らないといけない。
“裏技”の誕生、帽子をかぶった理由
高橋 『ロードランナー』では「はしごで右手を上げたら、敵がすり抜ける」という裏技の第1号のようなものがありました。これが出た時にはあせりまして、「全部回収か。やべえ、(会社が)つぶれる。どうしよう」と思って、コロコロさんと話したら「これは表には出せないから、“裏の技”ということでやったら面白いんじゃないか」と言われて、「そうだ、発表してしまえ。“裏技”(笑)」。それが功を奏したために、ほかのメーカーさんもバグというバグを全部裏技と言うようになってきました。ゲームが続けられればいいと思うのですが、暴走して動作が止まったのまで裏技となったのはやりすぎだろうと思いました。ただ、ハドソンは裏技ってあまりないんですね。
(1本のソフトの宣伝期間が)2カ月ということは放送は8回ありますから、「(裏技は少ないし)攻略するテクニックだけでつなぐのは無理」と言ったら、「じゃあ、隔週でもいいから」ということで始めたのが10月からの放送です。月2回の約束だったのですが、10月下旬に「やっぱりどうしても毎週やってくれ」と言うので、11月から毎週になりました。最初、私の出る時間が7時45分くらいだったのですが、子どもから「それを見終わったら遅刻する」と投書がありまして、オープニング始まってすぐの7時15分からにコーナーが移って大変でした。
一度、寝坊事件がありました。当初ハドソンは麹町に会社がありまして、その後市ヶ谷に移ったのですが、私は麹町のままで6畳1間月4万5000円の部屋に住んでいたんですね。ある日、朝起きると7時なんですよ。東京タワーのところに7時15分にはいなければいけないんです、7時16〜17分には私のコーナーの放送が始まるので。当時、携帯電話なんかありません、それに私は家に電話がなかったんです。土日イベントで、ほかの日は毎日小学館行って、夜は飲みに連れて行かれて、家で寝てるのは2〜3時間くらいで、ほとんどうちにいなかったので、電話が要らなかったんですね。とにかくバイクに乗って何とか東京タワーのところにバイクを付けたら、もう志賀ちゃん※たちがオープニングを始めているんですね。地下のスタジオに着いた時に、ヘルメットを取ったら髪がぶわっと広がってしまったのでADさんから帽子を借りて、かぶりながらやったら受けたので、それから帽子をかぶるようになりました。
おはようスタジオは1986年6月までで、1986年の10月からは「高橋名人の面白ランド」という番組を1年間ぐらいやりました。高橋名人の面白ランドは30〜40局くらいで全国放送している30分番組でした。1987年10月からは日本テレビで「DOKI DOKI DO」という番組をやりました。また、1986年10月からは、日本テレビで「Bugってハニー」というアニメがありました。
ラジオでは1986年7月から「全国こども電話相談室」(TBSラジオ)の先生になりました。生放送なのですが、あれは怖いんですよ。最初は、電話があると質問を紙に書いて、MCと先生たちの目の前に置いてくれて、「この質問は私が答えます」と答えられそうな先生が手を上げることになっていました。でも、それがつまらなくなったんでしょうね。MCさんがその紙を見せてくれなくなったのです。分からない質問を「じゃあ、高橋名人お願いします」と振られると、「えっ、うそ。これはどうやってごまかそう」とあせりました。
放送を聴いていた方なら分かると思うのですが、質問を繰り返す先生がいますよね。私も時々やりましたが、あれは繰り返している最中に「何を言うか」を考えていたんです。皆さんもぜひ機会があればやってもらいたいですね。子ども向けの解説は非常に難しいです、専門用語が使えませんから。こういう経験があったから、私もイベントやステージで子ども向けの言葉をしゃべることができたんだと思います。
1986年夏の映画『GAME KING 高橋名人VS毛利名人 激突! 大決戦』は、私と毛利名人が(ゲームで)戦うという内容です。ちなみに冒頭、連射でスイカを割るシーンがあって、今でも(本当に連射でスイカを割ったと)信じていらっしゃる方がいっぱいいらっしゃいます。もう皆さん大人ですから分かると思いますが、映画ですから(笑)
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