きょうのコラム「時鐘」 2009年3月12日

 田口八重子さんが北朝鮮に拉致されたのは1978(昭和53)年9月だった。77年9月に最初の拉致である宇出津事件で久米裕さんが連れ出された1年後だ

宇出津事件の直後に、新潟から横田めぐみさんが拉致され、78年の夏になると地村さん夫妻、蓮池さん夫妻、曽我さん母娘が相次いで拉致された。大韓航空機爆破はそれから約10年後に起きた。北朝鮮の連続拉致は爆破テロへ時間をかけた、周到な工作員教育と連動していたように思う

今回の金賢姫(キムヒョンヒ)元工作員と田口耕一郎さんとの会見は、実現は遅すぎたが、日韓両政府にとっても、個人的にも双方が、心の落ち着く会見だったろう。金元工作員には日本側の警察やマスコミが既に接触して詳細を聞いているので、大きな新事実発掘は困難だった

中曽根外相がこの15日に金沢で開く「外相と語る」を前に会見して、最初の拉致としての宇出津事件名を挙げ、北朝鮮の調査やり直しを含めて言及した。政府関係者から久々に聞いた「宇出津事件」だった

拉致はどれも許し難いが、足元の事件を忘れず、地域のこだわりをもって追及し続けたい。