冷たい雨にうたれて--
1ヶ月程前の1月中旬。朝から冷たい雨が降っている。JR/渋谷駅南口。一日が終わろうとしている午後10時だ。
改札口を出た人々が、お互いの体が触れないように肩先の角度を変えながら早足にすれ違って行く。
駅の開口部分にある花屋は、店じまいの時間なのだろう。白いつなぎを着た小柄な若い女性が、売れ残りのガーベラやフリージア、バラなどを新聞紙で大きく束ね、両手で抱えて店のかたわらに止めた車に運んでいる。濡れた手が赤くなっている。煌々とつけられた店の灯りが髪を後ろに束ねた彼女の丸い顔をクッキリと照らして、何かの舞台の一場面のようだ。目もとに疲れが見えるが皮膚に張りがあって見ていて気持ちが良い。長時間水に漬けられていた植物の匂いと、ホコリまじりの雨の匂い、一日を外で過ごした人たちのまだ沈み切らない高揚したままの気分が混じり合って、花屋の一角は暖かく生き生きしたものがあふれていた。
今夜は一段と寒い。
わたしは傘を傾けて風と冷たい雨を避ける。
雨水で覆われたアスファルトは、ビルの壁面に取り付けられた広告のライトを浴びて、ニスでも流したように光っている。靴先をつけるたびに、水に映された光の輪郭はたちまちに砕かれワラワラと散って行く。そしてすぐに新しい形が作られる。--- また崩れ---また新しい形になり---と切りがなく繰り返している。
みんな急ぎ足で歩いている。
わたしもバスを逃すまいと、早足になる。
駅前の信号が赤になる前に渡ってしまおうと思った。
それがいけなかった。
突然、雨の夜空にピンクの傘がフワリ、と浮かんだ。
メリーポピンズが空からやって来たのではなく、
わたしが足を滑らして転び、傘が手を離れたからであります。
一瞬後には、鼻の10cm先にアスファルトの地面があった。
目の前には見たい訳ではないのに真っ暗な夜空がいっぱいに広がっている。冷たい雨が情けも配慮も無く真上から顔を打ってくる。
嗚呼ーっ。また、やってしまった。
実は先月も全く同じ条件、つまり雨の夜、 30cmと違わない場所で滑って転んだのだ。

そして数日の間、足首の痛みをこらえながら自己嫌悪で気持ちが落ちこんでしまった。高麗人参エキスを倍量呑んでもさっぱり元気が出ない。
わたしの人生って「自己を高めるには---」なんて課題は「おとといおいで」といわれるほどに問題外で、
いつもこんな風に自分が招いたハプニングのあと始末に追われているんだわ。何しろ一ヶ月に二回ですもの。この点にはねんざしたわたしの足首も痛みと共に実感している事でしょう。今もまだ、ギブスは取れないし---
夏目漱石著「門」の宗助とお米さんのように、
世間や雑事からなるたけ離れて、七輪にかけた白菜鍋でもつついて暮らしたい、っていうのに。いつの事やら---。「矢切の渡し」や「枯れすすき」でも良いけど---
まあ、とりあえず、修理屋にもって行ってブーツの底に決して滑らない何かを張ってもらおう。
これから先、
冷たい雨が降るたび、
わたしは何回もこの事を思いだすでしょう。
そして、わたしの人生って自分がしたことのあと始末の連続なんだ、って確認することにするわ。
picture from " The Book of Bunny Suicides" by Andy Riley."Madeline" by Ludwig Bemelmans. Mayumi painted.
1 Comments:
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