2009年03月11日 社説
[比一家強制退去]
子どもの権利を第一に
13歳の少女が泣いている。不法滞在の両親が近く国外退去になるためだ。一家離れ離れになるか、あるいは一緒に出国するかの選択を法務省は少女に迫る。
日本で生まれ育ち、小中学校とも日本の公立校に通うフィリピン人のカルデロン・のり子さん(埼玉県蕨市立第一中学校1年)は、生まれてからフィリピンへ行ったことはなく、同国公用語のタガログ語も話せない。「日本は大好きな自分の国。家族で暮らしたい」。少女はそう願う。
両親は偽造パスポートで日本に入った。父アランさん(36)は16年、母サラさん(38)は17年、不法滞在を続けた。
1995年にのり子さんが誕生した。父は建設会社に勤め、同僚に慕われているという。地域になじみ、不法滞在以外に罪は犯していない。
2006年の夏、サラさんが逮捕され、10カ月間、入国管理局に収容された。のり子さんが小学5年になり、正規の在住許可を申請しようと考えていたときだったという。在住許可は最高裁の上告審(昨年9月)でも認められず、退去処分が確定した。その後は身柄収容を一時停止する仮放免の延長が繰り返された。入管は9日に出頭したアランさんの身柄を収容した。
16日に母子とも収容され、17日に一家は強制送還される予定だ。のり子さんだけは本人が希望すれば、在留特別許可が与えられる可能性がある。その場合は家族が引き裂かれる。のり子さんの同級生が一家の残留許可を求め、約2万人の署名を集めた。
法務省は「全員の退去」を原則としているが、のり子さんの在留は学業の継続を保障する措置だという。
両親は偽造パスポートを使ったことが、正規のビザが切れた不法残留よりも悪質と判断された。最高裁も「子に責任はないが、親が強制退去となれば一定の不利益はやむを得ない」とした。
法の下の平等原則からいえば、法務省の決定はやむなしだったかもしれない。ただ今回は、日本で生まれた子どもの発育環境をどう守るべきか、という観点も必要だ。
似たケースがオーストラリアであった。14年間の不法滞在だったインドネシア人の親と13歳の息子が引き離された。親の訴えを受けた国連人権理事会は、国際人権規約に違反しているとして、豪政府に是正を求めた。
「家族は社会の自然かつ基礎的な単位であり、社会および国による保護を受ける権利を有する」(規約23条1項)
国連人権理事会はカルデロン一家についても調査に乗り出した。
「すべての措置は、子どもの利益が最優先される」ことをうたう「子どもの権利条約」に照らしたとき、日本の対応は人権尊重の国際基準に合致するのだろうか。
移民の歴史が長いフランスや米国では80年代から「アムネスティ」という恩赦措置があり、滞在およそ10年以上、重罪を犯していない―ことを条件に在留を認めている。
子どもの権利と入管法をてんびんにかける愚はやめるべきだ。
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