社説

2009年03月10日

罪のない少女の涙はつらい

 その少女は祖国とされるフィリピンの土を踏んだことさえない。

 タガログ語も話せない。

 意思を伝え、聞く言葉は唯一、日本語だ。外見も日本人とそう変わりはないし、また気持ちも日本人として生きてきたという。

 埼玉県蕨市に在住するカルデロン・のり子さん(13)。

 彼女の父アラン、母サラさんはそれぞれ他人名義のパスポートで入国。長期にわたって不法滞在を続けてきた。

 東京入国管理局は9日、親子3人の在留特別許可をあらためて求めるために出頭したアランさんの身柄を収容、強制退去の手続きを開始した。

■裁きは終わっている■

 のり子さんだけには在留特別許可が与えられる可能性はあるが、両親が強制退去になれば家族は引き裂かれる運命だ。

 犯罪には厳正、公平に対処すべきである。しかし、今回のケースでは「非情すぎる」と感じる人が多いのではないか。

 アランさんは建設会社などで働き、サラさんとともに地域と良好な関係を築いてきた。2人に入管難民法以外の犯罪歴はない。

 2006年に入管難民法違反で逮捕、起訴されたサラさんには執行猶予付き有罪判決が確定している。つまり、犯罪に対しての裁きは終わっている。

 一家が強制退去処分の取り消しを求めた行政訴訟は昨年、最高裁で敗訴が確定した。

 のり子さん一家に対する入管の判断には、この最高裁判断が影響したようだ。だが、訴訟提起の時点で子どもの学齢が中学生以上の場合、在留特別許可を認められた例もある。

■海外メディアも注視■

 一家については海外メディアも報道している。国連人権理事会も調査に乗り出している。

 子どもには「両親と暮らす権利」や「継続的に教育を受ける権利」がある。海外はその見地から、のり子さん一家の扱いに関心を持っている。

 児童の権利条約には、両親の意思に反して「子どもは父母から分離されない」という規定がある。

 同条約には日本も批准している。日本政府は親が入管難民法違反者の場合は「適用外」と解釈してきた。国連の児童権利委員会はこれまでに解釈の撤回を促す勧告や懸念を表明している。

 もし、のり子さんが両親とともにフィリピン行きを選択すれば、これまで受けてきた日本における教育の継続性が断たれる。

 欧米諸国は出頭したり、一定期間を超えた違法滞在者に在留を認める一種の恩赦を実施している。また、英国は7年以上の違法滞在者で子どもがいる場合は永住権を与えている。

 不法残留ではあっても、まっとうに働き、つつましい暮らしを営む外国人は少なくない。ここは人道的配慮を優先すべきだ。罪なき少女の涙はつらい。


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