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【社説】

チベット50年 譲歩せずの姿勢を憂う

2009年3月11日

 中国は十日、「チベット動乱」から五十年を迎えた。昨年再開されたダライ・ラマ十四世特使との対話は行き詰まった。この問題で内外政策を通じ、中国の強硬姿勢が台頭していることを懸念する。

 中国は一九五〇年、人民解放軍をチベットに進駐させた。当初はチベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマの地位を保障し政治制度を維持すると約束していた。

 しかし、その後、社会主義に基づく土地改革などを急ぎ、生活様式の変更を迫られたチベット側と矛盾が深まった。

 五九年三月十日、軍がダライ・ラマを観劇に招いたことを拉致の口実と疑った支持者多数が軍と全面的に衝突。ダライ・ラマはインドに逃れ亡命政府を樹立した。

 それ以来、この日を期してチベットでは中国の支配に対する抗議活動が行われ、北京五輪を控えた昨年には大規模な暴動に発展したことは記憶に新しい。チベット側発表で二百三人(中国政府発表は警官など二十三人)の死者を出した、この事件をきっかけに、国際社会の懸念や批判が強まった。

 追い込まれた中国はチベット側との対話を再開し三回、協議が行われた。ダライ・ラマ特使は独立を断念し「高度な自治」を要求したが、中国側は事実上の「大チベット」樹立構想だと批判。平行線のまま対話は中断している。

 現在の中国のチベット問題への基本方針は「一切譲歩せず」(党幹部)といわれる。動乱五十年を前にチベット自治区などには徹底した厳戒態勢が敷かれ、抗議は散発的にとどまっている。

 一方で中央政府は自治区に対する財政補助を二倍に増額し、教育や衛生など民生分野への投資を増やし不満の緩和を図っている。

 しかし、チベットに経済の論理が持ち込まれて独特の自然や文化、風俗が損なわれ、ダライ・ラマを慕うことも許されないことに住民の不満は募っているという。

 「アメとムチ」で反抗を制圧できるとは思えない。現地に強い影響力を持つダライ・ラマとの対話を成就させることが事態を落ち着かせることになろう。

 中国はサルコジ大統領がダライ・ラマと会見したフランスにも激しく反発した。首脳交流再開の条件として事実上、再会しない確約を求める姿勢をみせている。

 チベットに対する強硬姿勢が国内のナショナリズムを刺激したのか。急速に台頭する大国が外交でも、こわもてな態度を強めていることを注視する必要がある。

 

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