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社説2 人権不在のチベット半世紀(3/11)

 チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世のインド亡命につながったチベット動乱から10日で50年。中国共産党政権は「封建的な農奴社会を解放した」「経済が発展した」と半世紀の成果を宣伝するが、信教の自由を奪われ高圧的な支配に苦しんでいる人々の反発は強い。

 2月以来、共産党政権はチベット自治区などに軍隊や武装警察を増派し厳戒態勢を敷いた。それでも青海省のチベット族自治州で今月8日、チベット族と警官隊が衝突するなど、現地の情勢は不穏だ。

 胡錦濤国家主席は政権運営の理念として「調和のとれた社会」を掲げているが、まずチベットの人々を力で抑えつけることをやめ、信教の自由をはじめ人権を尊重することで民族融和をめざすべきではないか。

 昨年の3月14日、チベット自治区ラサで大規模な騒乱が起き、他のチベット族集住地域にも広がった時も、当局は武力で鎮圧した。実は鎮圧の際の死者数をめぐってはインドに本拠を置くチベット亡命政府と中国当局の主張に今も開きがある。

 まして半世紀前の動乱や1980年代後半に相次いだ騒乱の実相は深い闇の中だ。人権侵害を抑止するためにも、現地での内外メディアや歴史家の取材・調査、外国人の旅行を自由に認めて「開かれたチベット」にする必要がある。

 昨年の騒乱のあと共産党政権は国際世論に配慮しダライ・ラマ側との対話を再開したが、北京五輪が終わると再び中断した。最近はダライ・ラマへの非難と圧力を強めている。対話を通じた政治解決を模索しなければ事態は一層こじれかねない。

 チベットの現状は共産党政権が本格的な政治改革に消極的なことのあらわれでもある。共産党政権ナンバー2の呉邦国・全国人民代表大会常務委員長は9日、「複数の政党による政権交代や三権分立は絶対にやらない」と改めて強調した。

 今年6月4日は、学生らの民主化運動を武力で制圧した天安門事件から20周年にあたる。共産党政権が「反革命」と決めつけた民主化運動を再評価する気配はない。経済を軸に中国の国際的影響力が一段と高まっているだけに、政治改革の現状は憂慮に堪えない。

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