2009年3月の日記

2009.03.01.
単に新聞紙が欲しくて新聞を買いました。時の不定期連載。
 夜道を外れて、空き地に入っていく。空き地といっても瓦礫の集積場になっており、見通しは悪い。
 旧市街でも復旧の遅れているこの界隈には、人の気配は感じられない。そうでなくとも夜間の旧市街を出歩く者はそう多くないが――ここは難民居住区からも離れており、なおさらだ。
 明日の出航に備えて、港湾は連日、不眠不休の作業が続いているはずだ。キムラック難民らも慌ただしくしていることだろう。それらの手配は、もはや自分の仕事ではない。こいつは瓦礫の間から星空を見上げた。腰に手を当て、深呼吸する。
「ここから見上げる、最後の空かな」
 つぶやいた。独り言ではない。
 背後の物陰から、音を立てずに現れた人影に対して言ったものだ。
 その男は感情を交えずにこう聞き返してきた。
「それは、今夜死ぬと考えているからか?」
「どうかな。まあ、それでも最後になるには違いないか」
 こいつは苦笑して、後方に向き直った。
(さて、こいつは……誰だ?)
 かつての教室の仲間と言えるだろうか。
 貴族連盟の殺し屋は既に拳銃をこちらに向けており、引き金を四度絞った。
 銃声のたびに横に一歩ずつ。急ぐ必要もなくかわす。五歩目を踏み出す必要はなかった。弾が尽きたのか、殺し屋は拳銃をその場に放り捨てた。
 他になにか武器でも持ってきているだろうか。こいつは待ったが、殺し屋は無手のまま、拳も作らずに指先をこちらを向けた。目を細める。そいつが魔術の構成を編もうとしているのはすぐに察した――その構成が、まったく意味をなさない、でたらめなものであっても。


2009.03.02.
ミゼット完成。時の不定期連載。

 殺し屋は諦めて、腕を下ろした。つぶやく。
「あの日以来、俺は魔術を失った」
「そうか」
「お前が奪ったからだ」
「それは、違うな」
 こいつが告げると同時、殺し屋が飛び出した。
 速度はかつて見知ったものと遜色ない――魔術を失い、恐らくは体調も万全ではなかったろうが、殺人に関する技能はまったく変わっていないというのも皮肉な話だ。
 真っ直ぐに突進してくるようで、右にずれている。体勢からそう見せかけて、恐らく最後の一歩では左側の死角に入り込んでいるだろう。相手のフェイントに逆らわず、こいつは敵の姿を目で追うのをやめた。目を閉じていたとしても同じだったろう。その場からの離脱も最小限に、半歩にも満たない動作で身体を捻る。
 見えない位置から突き込まれてきた拳は、左手で受け流した。一瞬遅れて耳を狙ってきた指先は首を反らしてかわす。体勢を崩していれば、続けて放たれた蹴りに足首を払われ、転倒していただろう。が、こいつは留まることなく足の裏でそれを受け止め、逆に蹴り押した。
 敵の動きが僅かに澱むのを、気配というよりは道理で察する。
 即座に反撃に転じた。一瞬で身体を震わせ、地面を蹴る。その反動を拳に乗せて、真っ直ぐに敵の身体の中央へと注ぎ込む――拳の先端は空を切った。
 いるべき場所に、敵の姿はなかった。
(二手目か三手目か……そのあたりで読み違えたな)
 無視するつもりでいたにもかかわらず、フェイントにかかっていた。殺し屋は既に後方に飛び退き、じっとこちらを見据えている。


2009.03.03.
新しいPCモニターが横長過ぎて戸惑っている時の不定期連載。
 こいつは体勢を直しながら、相手と同じようには見つめ返せずにいた。左目が開いていない。痛みは大したことがなかったが、まぶたが動かなかった。手をやると、ちょうど眼球からずれたあたりに針が刺さっている。針は簡単に抜き取れたが、目は開かなかった。
(含み針か)
 最後に吹きつけていったのだろう。口に含んでいたのだから劇薬ということはないだろうが、まぶたが動かない。魔術で回復させることは難しくないだろうが、特殊な毒であれば分からない。
 狭まった視界で、殺し屋が再び動き出す。今度は正真正銘、真正面からだ。大きな動作で腕ごと叩きつけてくるような、そんな拳を放つ。
 右か左か後方か――本能が選び取った選択肢は、前進だった。打点から体をずらして回り込むと、拳、肘、肩、敵の身体と順番にすれ違う。入れ替わる寸前に手刀を放ったが、それはかわされた。
 逆に、左肘に痺れが走る。
 舌打ちして、こいつは腕を引っ込めた――ほんの一瞬だが関節を取られた。ダメージを負うほどではないが数秒は動かないままだろう。敵の意図が知れる。一撃必殺の撃ち合いでは相打ちになりかねないと見て、末端からじわじわと攻め、こちらの機能を狭めていくつもりだ。
 稼いだ何秒かを、敵が見過ごすつもりでないのは当然だった。すれ違う一瞬から身体を反転させ、追撃を仕掛けてくる。左目は塞がれ、左腕が麻痺している。狙いが重なったのは偶然ではないだろう。最初からこのプランを狙っていたはずだ。
 脇腹の急所への一撃は、腕を払ってなんとか防いだ。頭突きは防がずに、あえて上腕で受け止めた。
 本命はそこではなかった。左の足首に、火薬でも炸裂するような衝撃が走った。実際、地雷でも踏めばこんな感覚なのではないかと思える――が、威力は上側から加わっていた。踏み抜かれたのだ。


2009.03.04.
前に冗談で取った小型船舶操縦免許、1回もボートに乗らないままあと4日で失効することに気づいた時の不定期連載。
 今度は舌打ちどころでは済まず、転がるようにして退避する。倒れて起きあがれるかどうか、不安が胸をよぎったが、体勢を立て直してからまだ足が胴体に繋がっているのを見て安堵した。それほどの威力ではあった。
 なんにしろ挫傷は間違いない。左腕は回復しつつあったが、代わりに足の自由を持っていかれた。
 相手のとどめを警戒して、こいつは中腰のまま身構えた――が。
 殺し屋は動いていなかった。数歩の距離からこちらを見下ろし、声をあげた。
「あの時……」
 ごく単純な怒りに打ち震えて、そいつは声を荒らげた。
「やれば、俺が勝った! 俺は超人となり、この世界を救った」
「だからあの場にいた誰ひとりとして、俺たちを戦わせなかった」
 こいつは告げたが、そいつは一笑に付す。
「あいつの、短慮な裏切りに過ぎん」
「それが悔しいか?」
「なんだと?」
 うめく男に、こいつは囁いた。
「一番止められたくない相手に止められたのが」
 殺し屋の怒声が魔術の攻撃であったかのように――こいつは片足で立ち上がり、後方に跳躍した。幸いにも転倒はせず踏みとどまり、また敵の追撃もその時にはなかった。
 距離を開けて対峙する。
「あの時……」
 こいつは口にしてから、それが相手の言葉のおうむ返しだと気づいた。
 が、言い直しもしなかった。
「あいつが俺に言ったのは、どちらかを選べということだった」
「超人として戦い続けるか、逃げるかということだ。お前は――」
「いや、違うな。超人として逃げ続けるか、戦うかということをだ」
「詭弁だ」
「どうかな『サンクタム』」
 これが別離だ。
「それが、俺を殺すためのお前の名前か。サンクタム」
 この男とだけではない。もっと多くの者との別離になる。
 ゆっくりと、こいつはそれを口にした。刻み込む。この最後の夜に言い残すにはちょうどいい。
「多分こう思っていたのは俺だけだったろうが――あの時も、勝つのは俺だったよ。あの時だったら、俺は、お前を殺していただろうな」


2009.03.05.
冷え込み過ぎてたいやきを食べました。時の不定期連載。
 そいつが両腕を広げ、躍りかかってくるのを見ていた。
 怒りに我を忘れていようと、殺し屋の動きに隙はない。自身の制御も計算も必要としないほど練り込まれた、徹底した殺人技術だ。
 こいつは無事な右足に体重を乗せ、待ち受けた。左腕を前に、右肩を後ろに。
 左手はただ突き出しているわけではなく、突進してくるそいつの身体を掴もうと牽制している。が、指先が敵に触れるよりも先に腕ごと打ち払われた。そいつの動きは最大限の予想をも上回って素速い。
 が、こいつはそもそも予測を捨てていた――どうでもいいことだ。考えていたことはひとつ。今、腕の内側に敵がいる。
 己の身の丈で責任を果たす。手のとどかないところを、手のとどかないまま怒るのではなく。それだけだ。
 見ていたわけではないが、そいつの歓喜は感じ取っていた。敵は勝利を確信している。最も致命的な箇所に、最短で爪を突き立てようとしている。
(どこまで無視できるか)
 冷たい心地で、こいつは囁いた。一瞬でも遅いほうが死ぬ。
 自分を殺す致命の一撃が迫り来るのをきっぱりと無視して、自分の作業にだけ没頭する。そいつがどの急所を狙ってきているか。どれだけの苦痛か、衝撃か。自分が死ぬのはあと何秒後か。
 すべて忘れて、そいつの胴体に右拳を添える。心臓の上。
 無心で殺人打法を重ねる。
 同時に吹き飛ばされた。


2009.03.06.
この連載の書籍化についても、ぼちぼち固まってきました。連載のほうはとりあえず今回でまたしばらく小休止です。時の不定期連載。
 恐らく、互いにまったく同じことをした――寸打による心臓打ち。こいつは地面に転がって、その衝撃が体内で暴れ回るのを味わった。熱い。視界が白黒に瞬いて、呼吸をするどころか、息を止めることすらできないような苦痛。
 意識が遠のいても、地面から逃げ出せない。どれほどのたうっていたか、こいつはようやく一息、肺に空気を入れた。
 たちまち後悔した。意識が回復すると、激痛がまだ去っていないのが分かるだけだ。それでも息を呑み、唾を吐き捨て、毒づきながらこいつは身体を起こした。足も手も、身体を支えるすべてが覚束ない。が、なんとか重力に逆らって頭を上げる。
 見るとそいつが倒れていた。目を見開いて、やはり苦悶に喘いでいる。身動きできない殺し屋を後目に、こいつは立ち上がった。手近な瓦礫に手を突いて、転ぶのを防ぐ。
 めまいを押さえて、こいつはつぶやいた。
「どれだけ自信のある一撃だろうと、相打ちじゃあ、完全には決まらない。お互いにな。だが、しばらくは動けないだろう。一日か、二日か――まあお前の好きにしろ」
「同時……だったはず」
 ヒューヒューと隙間風を思わせる吐息の合間に、途切れ途切れだがそいつが言葉を挟もうとする。
「どうしてお前は――」
「どうして俺だけ動けるのかってことか? こんなことでお前は満足なんだろう。だが、俺は行かないとならない」
 口の中の苦味――アドレナリンか、もっと違うものか――を噛み締めて、こいつはかぶりを振った。
「たったそれだけのことなんだ。本当だよ……」
 そしてあとは振り返らず、その場を立ち去った。


2009.03.06.その2
編集の人に誕生日を祝われてきましたー。
でも原稿待たせてる相手だったので、どっちかというと謝り会でした。
帰ってきて2分でアップしたら、↑の一部変換ミスっちゃうし(直しました)。
まあそれはともかく祝っていただいたのでした。年男ですわたし。
で、プレゼントがヤバイくらい可愛い! これです。

猫もなか。浦安の猫実ってところにある、猫実珈琲店ってお店で売ってるそうです。
猫って言い過ぎですわたし。
今日は多分あともう1回くらい更新します。

2009.03.06.その3

今月号のザ・スニーカーでーす。
告知が載りました。
次号(4月30日発売)から連載開始です。
旅モノです。で、西部劇で戦車です。そんな感じ。
一応、全9話を予定しています。
本当は今日までに戦車のプラモとか作っておきたかったんですが、間に合いませんでした。
ていうかこれしかありません。

頭の皮だけだよ人間でいったら!

2009.03.06.その4
よく見たら他人様の名前が隠れてしまってたので……すみません。


2009.03.07.
さて、ネタ企画です(名称欲しいなー)。
先月募集した、書き下ろしのネタ。まじめに選びますよー、ってより、テキトーにやるくらいがいいかなと思ってます。
なので応募〆切とかもわりといい加減です。
内容的にかぶりそうなのはまとめて数えてみると、こんな感じでした。
A(多数ネタ)は予想通りというか、プレ編の勢揃いでした。主人公と、あと教室の連中7人。まあ一度も揃ったことないんですよね。
B(面白いかな、というネタ)は、要はわたしはそれ思いつかないわ、っていうものを選ぼうと思ってたんですが、本当にただ純然たる意味で「思いつきそうにないネタ」だと単に予想外なだけだし、選ぶさじ加減が自分でもよく分からなくなってしまいました。
ぱっと、直感で選んじゃいます。教師になる以前のチャイルドマンの話。Aほどじゃないけれど、実は多数ネタでもありました。
C(あり得ないネタ)はまあ、ぱっと見、やりたくねーってものを選びます。候補にそういうのもないとつまんないよね、と思ったんですが。
これも直感で。魔王オーフェン対キースかな。
他は、1回だけ出たマイナーなキャラのお話とかが多かったですね。コーゼンとかそのあたり、みんなよく覚えてるなあ……AもBも多数ネタから選んじゃったので、バラけた分、不利になっちゃいました。
あと、ページ数の都合もあるので、ボリューム多くなりそうなのは避けた(Aも避けたかったけどこれは仕方ない)っていうのもあります。
既に書き下ろしをいくつか準備しているんですが、このネタとかぶるのは自動で落選させていただきました。これが結構あることに驚いたですよ……
というわけで、この3つから投票いただこうと思います。
A:プレ編の勢揃い
B:教師になる以前のチャイルドマンのお話
C:魔王オーフェン対キース

ABCから1つを選んで、motsunabenohigan@akita.email.ne.jp 宛にどうぞ。
まあ大層なルールを設けるほどのものでもないですが、一応お一人様1票で。
期間は、たった今から1週間後、13日の金曜日23時59分までです。

2009.03.08.
企画の話続きですが。
打ち合わせをしまして、収録できる原稿がだいたい決まってきました。
ミニ文庫や、今まで雑誌にだけ発表したものなんかも収録してしまおうということになったんですが、収録タイトルはこんな感じになりそうです。
・ミニ文庫×2(『悪逆の森』『ゼロの交点』)
・ドラゴンマガジン増刊に掲載されたエンジェル・ハウリング短編
・ザ・スニーカーに掲載されたリングのカタマリ
・ドラゴンマガジン増刊に3話連載されたパノのみに冒険/1話、2話、3話
この7本ですが、以前お話ししたように、わたしの手元に本が残ってないんですよね。
それでみなさんに協力いただければ、と思っています。
御礼として、その7名に完成した本を献本させてくださいませという、そういう企画です。
とはいえ重複しても意味がないので、申し訳ないですがそれぞれ1名様ずつに限らせていただこうかと。
選ぶ方法ですが、日時を指定した上でメールを募って、先着で各1名、合計で7名様という感じで。
メールの内容には、どの原稿について応募するか、タイトル1つだけを書いてください(特に、連絡先等は書かないようにしてください)
一番早かったメールアドレスに出版社のほうから返信します。それで連絡がつきましたら当選です。
なので、返信して連絡のつくアドレスでお願いいたします。
なお、ミニ文庫については本を送っていただくことになると思いますが(もちろん返却します)、その他のものはコピーで大丈夫です。
で、日時ですが。
14日土曜日の14時から受付です。
今回のメールは、いつものアドレスではなくて、出版社さんのほうに送っていただくことになるので御注意ください。
その日までに、このサイトのトップページで募集用のアドレスを掲示します。
うーん。なんか分かりにくいかなー。

2009.03.09.
そんなわけで持っていた小型船舶操縦免許が失効しました。
まあ、なんか取ってみようかくらいの感じで取ったものなんですが。
取得後は1回も操縦しませんでした。
ちなみにこれくらいのボートで試験受けました。

多分乗るのは、もっと大きい船でもオーケイだった気がします。
「二級5トン」って資格です。
今ではこの区分はかなり変わっていて、もう5トンとかって区別はなくなってるようです。
画像は教習に来た時のものなんですが、実技の講習は試験前日に2、3時間乗る程度で終わりです。
でも試験の合格率は95%かそれ以上です。
正直、免許取るだけだったらまったくの素人とほぼ変わりません。
でも海の上をボートで走るのはスゲー気持ちよかったです。
ちょっと海を見る目が変わるくらい。
あとおまけ。

教習所に猫いました。人なつこかったです。

2009.03.10.
ネタ企画の中間報告。
ABCどれも意外と(?)変わらない感じです。
じわじわっとは差がありますけど。
なお、それぞれの最初の台詞は、
Aは「……なんで髭が?」
Bは「ブラディ・バース・リン。まったく悪いとは思っていないが、まあ、死んでもらう」
Cは「ところでさ、俺らもうじき、死ぬよな」
から始まります。なんとなく決めました。

2009.03.11.その1
そういえばそういう時期なのでデパ地下に行くわけでしょ。
いつも思うんですけど、なんか3月の品揃えって2月に負けてるんですよ。
お菓子屋の気合いが違うっていうか。
なんかすっげー不利なルールで戦ってるって気がしません?
おのれぃ。負けるか。

2009.03.11.その2

オトレト人IIノオト……じゃなくて、韓国語版『カナスピカ』です。
意外に思うかもしれませんが(?)翻訳版って結構よくあるんですよね。
オーフェンとかエンジェル・ハウリングとかもなってたりします。
ハングルって本当に文字から分からないから、自分が書いたはずなのに見ても全然理解できないって不思議な気分です。
韓国語ができる人に聞くと、必ず「実はローマ字みたいな感じで覚えやすいよ」って言うんですよね。
外国語できる人ってマジうらやましいです。ていうか日本語できる人うらやましい。