北朝鮮が「人工衛星打ち上げ」と称して長距離弾道ミサイルを発射した場合に備えて、防衛省はミサイル防衛(MD)システムでの迎撃を含めた対応を検討しているという。
過去には、北朝鮮が発射した弾道ミサイルが日本海や日本列島を飛び越えて三陸沖の太平洋に着弾した例もある。
今回も、北朝鮮が発射したミサイルが日本の領土や領海・領空に飛来することは十分に考えられる。
それが意図的なものか、制御ミスによるものかを問わず、国土と国民の安全を守るために、ミサイル迎撃の即応態勢を準備しておくことは必要だろう。
日本のMDシステムは、イージス艦に搭載した海上配備型ミサイル(SM3)で日本に飛来する弾道ミサイルを迎撃し、阻止できなかった場合は国内に配備した地対空誘導弾パトリオット(PAC3)で撃ち落とすというものだ。
実際に迎撃に踏み切る場合、政府はMDシステム導入に伴い自衛隊法に新たに規定した「弾道ミサイル等に対する破壊措置」を初適用することになる。
ただ、明らかに軍事目的の発射であっても、平和利用のロケットと言い張るミサイルを実際に迎撃するとなると、対北朝鮮政策の転換をも視野に入れた重大な政治決断が要る。
もちろん「万一の事態」への備えは欠かせないが、政府にとって今それ以上に重要なのは発射を思いとどまらせるために国際圧力を強める外交努力だろう。
日本政府は、北朝鮮がミサイル発射を「衛星打ち上げ」と主張しても「北朝鮮にあらゆるミサイル計画の活動停止」を求めた2006年の国連安保理の制裁決議に違反するとして、米国や韓国とともに北朝鮮に中止を求めている。
中国も先月の日本、米国との外相会談で、北朝鮮の挑発的な態度に懸念を表明した。北朝鮮の「理解者」である中国がこの局面で果たす役割に期待したい。
安保理決議に基づく制裁を求める日米韓と、制裁には消極的な中国に温度差はあるが、北朝鮮に自制を求めていくことでは4カ国は一致している。
北朝鮮の利害と北東アジアの安定にかかわる国々の意思を無視して発射を強行すれば、損をするのは北朝鮮である。
国際社会からの孤立が1段と深まり、ただでさえ深刻な食料難やエネルギー不足、経済困窮がさらに進むことになる。北朝鮮自身も重々承知のはずだ。
北朝鮮側に、発射を予告することで新たに「ミサイル」カードをちらつかせてオバマ新政権の出方を探り、対米交渉や6カ国協議を有利に進めようとの思惑があるとすれば、とんだ思い違いだ。
北朝鮮にそのことを知らしめるためにも、日米韓と中国は繰り返し「ミサイル発射で北朝鮮が失うものの大きさ」を明確なメッセージで伝えるべきだ。そうでないと、北朝鮮はますます増長する。
=2009/03/08付 西日本新聞朝刊=