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2009年3月6日

自殺型抗議広がる懸念−チベット動乱50年

 三月十日、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ十四世のインド亡命に至ったチベット動乱から五十周年を迎える。十四日はチベット自治区ラサで昨年発生した大規模暴動から一周年でもあり、中国公安当局はチベット族居住区に治安部隊を大幅増員して厳戒態勢を敷いている。一部で発生している自殺型抗議が広まれば、現世利益ばかり強調する力による信仰弾圧統治では防ぎようのない暴動になりかねない。
(香港・深川耕治)

居住区−正月の祝いなく読経専念

中国当局、暴動恐れ厳戒態勢

 チベット暦の正月(チベット暦二一三六年元旦)を迎えた二月二十五日、四川省や青海省のチベット族自治州では大半のチベット族が年明け恒例の漢族と共に行う祝賀行事や祭りの参加を拒否。春節(旧正月=今年は一月二十六日)同様、僧侶らも読経のみに専念する姿が圧倒的に増えた。中国中央テレビでは連日、チベット暦の正月に祝い事を楽しむチベット族の姿を特集して報道しているが、各地のチベット族は「昨年の弾圧で犠牲になった人々に哀悼の意を表すため、今年の正月は沈黙の抗議を行う」(香港有線テレビの現地報道)との動きが広がったからだ。

 ダライ・ラマ十四世は二月二十四日、亡命政府のあるインド・ダラムサラの新年祝賀声明で「昨年は数百人が弾圧の犠牲になり、数千人が拘束された。(犠牲者を悼み)チベット人が新年を祝わない決意を称える」と述べ、「北京当局が最近、チベット統制を強化している。彼らの挑発に乗らず、忍耐して非暴力の原則を守ろう」と呼び掛けた。

 今年一月初め、ダラムサラに拠点を置く独立派組織「チベット青年大会」が「今年の正月は『大黒年(喪中の年)』であり、祝賀活動を放棄しよう」と呼び掛け、これに中国内のチベット族も呼応した形だ。「正月は一家団欒だんらんの祝日だが、今年は祈祷きとう日に変更する。中国統治下で昨年死亡したり、苦難を受けた人々を追悼するためでチベット社会全体として行うのは初めての試み」(亡命政府報道官)という。チベットでは身内が前年に死亡した場合、新年の正月は祝わない慣習があるが、昨年三月十四日のラサ暴動で死者十八人、負傷者三百八十二人(中国政府公表)を出したことが、身内の死と直結するほど重大な意味合いがあると受け止めているのだ。

 二月後半からチベット日報では「民主改革五十年」と題して百万人の農奴が解放され、総生産額が六十五倍に達した経済実績を繰り返し宣伝。中国政府は今年一月、チベット動乱を制圧して統治権確立を宣言した一九五九年三月二十八日を記念して毎年三月二十八日を「農奴解放記念日」と制定。ダライ・ラマの写真所持すら禁ずるチベット族への宗教弾圧、文化大革命時代の寺院破壊などには一切触れず、内外のチベット人の感情をさらに逆撫でしている。

 二月以降、軍や武装警察の治安部隊がチベット自治区だけでなく、四川、青海、甘粛省のチベット族居住区へ大量動員された。二月十九日、公安省の張新楓次官を筆頭とする特別チームがラサ入りし、チベット仏教ゲルク派の三大寺院の一つであるデプン寺で消防対策訓練を視察。表向きは消防対策だが、実際は「昨年三月のラサ暴動の発端となった同寺僧侶らのデモの苦い教訓から寺院内の秩序引き締めを強化することが目的」(香港紙「星島日報」二月二十五日付)だった。 情報統制も厳しさを増す。中国政府は海外メディアによるチベット自治区への自由取材を禁じ、青海、四川、甘粛各省のチベット族居住区立ち入りも厳しく制限している。二十八日には劉結一外相補佐ら中国外務省幹部がネパール入りし、ネパールと関連するチベット問題を集中協議。ラサ市内の複数の旅行社社員の話では二月十九日から四月一日までの期間、チベット自治区への外国人団体旅行客の受け入れを一時停止することが決まったという。BBC中国語ニュースサイトも中国当局が二月末から三月末まで外国人旅行客のチベット自治区入境を一時禁止したと報じている。

 二十五日、青海省貴南県では僧侶約百人が平和的デモを行い、当局に強制解散させられた。二十七日、四川省アバ県ではチベット仏教寺院キルティ・ゴンパ(格爾登寺)で法要を行おうとして拒絶させられたことに不満を抱いた若い男性ラマ僧一人が寺院を飛び出してガソリンをかぶり、焼身自殺を図って抗議した。AFP通信が伝える現地住民女性の話では焼身自殺を図った際、「間違いなく警官が男性に発砲した」と証言。チベット独立支援団体の目撃者情報では警官が自殺を図った僧に三発の銃弾を浴びせ、少なくとも一発は命中したとしているが、中国当局は「でっち上げだ」と完全否定している。 これとは別に全国人民代表大会(全人代=国会)の五日開幕に合わせ、地方農民の直訴者が北京市政府前での割腹自殺抗議(二月二十三日)を図り、ウイグル族による北京市内での焼身自殺抗議(二月二十五日)も発生。九九年後半から徹底弾圧された気功集団・法輪功が各地で焼身自殺による抗議を繰り返したことが再現されかねない雲行きだ。

(本紙掲載:3月5日)

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