【第2回】 2009年03月10日
「とりあえず」は外科医にはない言葉
「肝細胞がん、拡大肝右葉切除術後3日目の患者です。発熱はなく、白血球数12000、血小板八5000、血中ビリルビン1.8、ドレーン排液、淡血性で265ミリリットル、術後経過は良好です」と私。
「右の肺の胸水は?」とI先生。
すかさず胸部レントゲンを出して「一部、肺の膨らみの悪いところがありますが胸水は100ミリリットル以下で本日ドレーンを抜く予定です」。
私は、想定される質問に対する答えを準備して、心の中で言ってみる。回診には、その場で的確に答えないと即刻、退場という緊張感があったものだ。
ある日の回診前
プレゼンでのこと
「胃がん、胃全摘出術後7日目の患者さんです。排ガスがあり、昨日より、食事を開始しましたが、昨夜より発熱と腹痛が出現し、とりあえず絶食を指示しています。本日の白血球数が18500で、アミラーゼが軽度上昇しています。一昨日の縫合部の造影検査では縫合不全は認められていませんが、とりあえず放射線科へはCTをお願いしております。
しかし混んでいるようで…、とりあえず様子を見ております」とT先生が説明をしていたそのとき、バーン!と机を叩く音が響いた。そこに見たのは、赤くなったI先生のこぶし。
「外科医に“とりあえず”はありません。今すぐCTをとり、縫合不全か術後膵炎かの診断を行いなさい。外科的処置をするべきかどうかの結論を、今、出しなさい!」
こぶしの一撃は、担当チームを即座に動かし、緊急CTに続いて、早急な外科処置が行われ、患者さんは大事に至らずに済んだ。
他人事ではない。私が回診に緊張するのは、こうしたことを目撃していたからだ。
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柴田高
川崎医科大学卒業後、大阪大学論文博士課程修了。日本外科学会指導医。日本消化器外科学会専門医。現在は大幸薬品副社長。著書に『カリスマ外科医入門』『肝癌の熱凝固療法』がある。
現在は製薬会社役員である外科医師による医療エッセイ。患者の知らない医師の世界。病院の内側が覗ける、ここだけの話が満載。