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医療用語を明解に伝える工夫―国語研が最終報告

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 医療用語を明解に伝える工夫について検討していた独立行政法人・国立国語研究所の「『病院の言葉』委員会」(委員長=杉戸清樹・同研究所所長)は3月7日、東京都内でフォーラムを開き、最終報告を発表した。委員の講演のほか、全体での討議や質疑応答も行われ、医療関係者など約180人の来場者は委員の言葉に熱心に耳を傾けていた。

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 この委員会は一昨年秋に発足。医療やマスコミ関係者など25人の委員が、病院内で使われる言葉を分かりやすく伝える工夫について検討してきた。
 委員会では、医療関係者などへの調査から、患者に「病院の言葉」が伝わらない原因を、▽患者に言葉が知られていない▽患者の理解が不確か▽患者に理解を妨げる心理的負担がある―の3つに分類。その上で、それらを明解に伝える解決策として、▽日常語で言い換える▽明確に説明する▽重要で新しい概念の普及を図る―の3点を挙げ、「エビデンス」や「QOL」など、具体的に57語の工夫について提案している。

 中間報告に対して委員から異論がなかったことから、医療者らから寄せられた意見を加えるなど、最終報告は微修正にとどまった。
 医療者の意見の中には、「医療者と患者の言葉のギャップに気付かされた」「患者への説明に使いたい」「教育や研修に使いたい」という声があった一方、「医師は説明する時間的な余裕がない」と現場の窮状を訴えるものや、医療者への教育を行うだけでなく、「患者も知る意欲を持ってほしい」とする意見もあった。
 最終報告について説明した田中牧郎・同研究所言語問題グループ長は、「患者が理解していない言葉が多くて驚いた」と感想を述べ、今後の課題として「心理的な負担の明確な類型化」などを挙げた。

■診療所は「狭さを自慢すべきだ」

 講演では、開業医、勤務医、患者団体代表が、それぞれの立場から意見を述べた。矢吹清人委員(矢吹クリニック院長)は、診療所の利点として「狭さ」を強調。患者との距離が近いことから、「狭いことは患者に優しい。堂々と狭さを自慢すべきだと思う」と、クリニックの意義について説明した。
 そして、初めての患者の場合、「診察室に入った時からが勝負」とし、「待たせた人ほどゆっくり対応し、決して患者の前では忙しそうにしないこと」とアドバイス。また、方言や言葉の癖など「患者の言葉」で話をするよう心掛け、「難しい言葉でも、ゆっくり、はっきり話すことで、患者の理解は深まる」と、会話のこつを語った。さらに、「医師にとって、診断の正しさを確証できる検査結果はうれしい」が、検査結果が出る前日は眠れない患者も多いことから、医師と患者の間にある溝を指摘し、「検査結果の『異常なし』はめでたいこと。一緒に喜ぶべきだ」と述べた。
 矢吹委員はこのほか、割りばしを活用した骨折の症状の説明方法や、患者に分かりやすく病状を伝える「なっとく説明カード」など、コミュニケーション上の“技”を披露した。

■「患者は自分の体の専門家」

 三浦純一委員(公立岩瀬病院医局長・外科部長)は、治療中の患者には心の揺れがあるため、相手の心の動きに配慮した「ポライトネス・ストラテジー」の必要性を強調。対人コミュニケーションには、率直にすべてを話してほしいという「親近欲求」と、表現を緩和した告知をしてほしいという「不可侵欲求」の2つの基本的欲求があるとし、敬語や婉曲表現の使い分けなどについて説明した。
 また、三浦委員は「患者は自分の体の専門家だ」というシュバイツァー博士の言葉を引用し、「医療の専門家である医療スタッフと、自分の体の専門家である患者とその家族は、同等の立場でチーム医療に参加すべきだ」と強調。そして、双方の視点からコミュニケーションを考えた上で、「患者側が自分の意志で最適な診療を選択し、医療者から詳しい説明を引き出すことも重要なスキルだ」と述べた。
 このほか、照明の明るさや座る位置関係、首をかしげるといった動作など、言葉の面以外の配慮の重要性にも言及した。

■「患者も自分で勉強する時代」

 和田ちひろ委員(患者支援団体「いいなステーション」代表)は、過去に理解できなかったことのある医療用語について、37の患者団体を対象にインターネット上で実施した調査について説明。理解できなかった理由として、▽耳で聞くだけでは分からない▽言葉自体は分かるが、意味が理解できない▽日常で使う意味とギャップがある―の3つを挙げた。
 耳で聞くだけでは分からない言葉については、略語や同音異義語などがあり、「みんぜん(睡眠の前)」と略語を使われたことや、「かんかい(寛解)」を「完快」と思い込み、治ったと勘違いしたなど、個々のケースについて説明した。
 また、治療を始めたばかりの「新人患者」と病院の言葉に慣れている「先輩患者」では知識量に差があることから、「新人患者向けの手引が必要」だとし、病気によって言葉が異なる場合もあるため、疾患別のマニュアルの必要性にも言及した。さらに、患者用の図書館の重要性に触れ、「お任せ医療から、患者も自分で勉強する時代になった」と述べた。

■「医者と患者はダンスを踊るようなもの」

 全体討議では、同研究所の吉岡泰夫上席研究員の司会で、4人の委員が場内からの質疑に応じた。
 一刻を争う救急の現場で、特にインフォームドコンセントに苦労しているという救急隊員は、「心室細動だった場合、すぐに電気ショックをしたいが、それには必ず家族らの了承が必要になる。心室細動がどういうもので、なぜ電気ショックが必要なのかを説明するのに大変苦労している」として、短時間で的確に伝える方法についてアドバイスを求めた。
 これに対して三浦委員は、「このまま放っておくと、どんなことが待っているかを理解してもらい、すぐに実行に移す必要性を分かってもらうことが大切ではないか」と強調した上で、「救急の現場では、特に搬送先が見つからない場合の説明が難しい。それぞれの場面を想定した問答集のようなものを考えておく必要があると思う」と述べた。また、矢吹委員は「80歳代の人には、わたしだったら『心臓麻痺』と言う。正確ではないが、意味は伝わるのではないか。年代によって、使う言葉が違うこともある」と指摘した。

 コミュニケーションの問題について、和田委員は「患者も医療者の心の動きに配慮できればよいのではないか」と患者側の立場から発言。医療者との信頼関係が構築された結果、「分かっていれば教えてくれるのだから、今言わないということは何か言えない理由があるのか。もしかしたら先生も分からないのかもしれない」と、逆に医師に聞きづらくなった経験を話し、「お互いの“弱さ”というか、不確実性の共有ができるようになれば、本当の意味での信頼関係ができるのではないか」と指摘した。
 三浦委員は「患者が治療の覚悟をしたら、わたしたち医師も覚悟を決める。最期まできちんと面倒を見て、『ご臨終です』と言うまで、何年かかるか分からないが、その間、ずっと患者を支えるという覚悟が必要になってくる。その覚悟の共有ができれば、コミュニケーションの問題はうまくいくと思う」と強調。矢吹委員は「医者と患者はダンスを踊るようなもの。医者が少しだけリードするのかもしれないが、一緒に付くことで病気の治療が進むのではないか」と述べた。


更新:2009/03/09 22:06   キャリアブレイン

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