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医療ナビ:ヒブワクチン 細菌性髄膜炎予防に有効で昨年末、販売開始…

 ◆ヒブワクチン 細菌性髄膜炎予防に有効で昨年末、販売開始。誰でも受けられる?

 ◇供給不足、1年待ちも

 ◇1回8000円×4回、全額自己負担 WHOは乳児の定期接種勧告

 「ヒブワクチンが足りない。予約が多すぎて、これ以上受けられない」。先月、長女(4カ月)に予防接種を受けさせようと診療所を訪れた女性会社員(33)は、担当医にこう告げられ驚いた。すぐに別の診療所に問い合わせて予約を入れたが、いつ接種できるか分からない状態という。

 ヒブは、髄膜炎など重症細菌感染症の原因となるインフルエンザb型菌(Hib)。1892年に流行していたインフルエンザの患者からこの菌が見つかったため、インフルエンザの名が入っている。しかし、インフルエンザとは無関係だ。

 ヒブワクチンの供給不足は深刻だ。販売元の「第一三共」(東京都中央区)は現在、診療所には毎月3人分、病院には10人分程度の供給調整をしている。同社によると、昨年12月に国内でのワクチンの販売を開始。年間100万本分(25万人分)を供給する計画だった。しかし今年に入り希望者が急増し、供給が追いつかない状態に陥った。製造元と協議し製造量や輸入量の増産を検討しているが、かなりの時間がかかるという。

 この事態に、野々山恵章・防衛医大教授(小児科)は「ワクチン接種の希望者が多く、数カ月から1年待ちの状態のところもある」と懸念を隠さない。患者らで作る「細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会」(田中美紀代表)は今月4日、供給不足を解消するよう求める要望書を厚生労働省に提出した。

 ◆年間600人発症

 細菌性髄膜炎を発症した乳幼児の約6割はヒブが原因で発症する。国内の疫学調査によると、年間約600人がヒブによる髄膜炎を発症し、うち約5%が死亡、約20%に後遺症が残ると推測されている。世界保健機関(WHO)の00年の推計では、15歳未満ではワクチンで予防可能な病気のうち、ヒブは麻疹(ましん)に次いで死者が多く、年間46万人を数える。

 ヒブは、鼻の奥に潜み、血流を介して髄膜に達し、炎症を引き起こす。健康な人でも数%以上は保菌しているとみられる。3歳を過ぎるころになると、知らないうちにヒブに軽くかかり、自然に抗体を持つ。

 髄膜炎が怖いのは初期診断が非常に難しい点にある。発熱や嘔吐(おうと)が主な症状で、血液検査をしても胃腸炎と紛らわしい。守る会の調べでは、髄膜炎にかかった27人のうち、10人は発熱してから3日目以降に髄膜炎の治療を開始。そのうち2人が死亡、7人が後遺症を残したという。

 ◆重い副作用まれ

 ヒブワクチンによる髄膜炎の予防効果は大きい。CDC(米疾病対策センター)によると、米国ではヒブによる感染症罹患(りかん)率は、ワクチン導入前に比べ約100分の1に激減。フィンランドも導入後、髄膜炎だけでなく、死亡率の高い喉頭蓋炎(こうとうがいえん)なども激減した。WHOは98年、ヒブワクチンの乳児への定期接種を勧告し、現在110カ国以上で接種されている。

 気になる副作用だが、接種部のはれや痛みなどが半日から1日で5~30%に認められるが、不機嫌になったり発熱したりする全身性のものはまれという。

 ◆生後2カ月から

 国内では仏サノフィパスツール社製の「アクトヒブ」が使われている。ヒブワクチンの接種時期は生後2カ月以上で、抵抗力が生じる5歳以上は必要ないとされる。4~8週間隔で3回接種し、3回目終了から1年後にもう1回の計4回接種する。費用は1回当たり7000~8000円だが、任意接種のため全額自己負担になる。

 現在、鹿児島市と宮崎市が費用の一部を助成しているほか、東京都荒川区も新年度から助成を始める。

 国立病院機構三重病院の神谷斉(ひとし)名誉院長らの研究では、ヒブワクチンが普及すれば年間82億円の医療費などを削減できるという。石和田稔彦・千葉大講師(小児科)は「ワクチンによる予防接種によって本人だけでなく、他の人にもヒブをうつさなくなる」と指摘する。守る会の田中代表は「供給不足で予防接種が受けられるかどうか地域間格差が広がる。安定した供給体制をつくるためにも、国はヒブワクチンを定期接種化すべきだ」と訴える。【河内敏康】

毎日新聞 2009年3月10日 東京朝刊

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