私は、逸る胸をこらえきれないままに、家の鍵を閉めて、翔の元へ。
翔は、こないだと違う私の服装に、ちょっと驚いていたみたいだった。
びっくりされると、こっちまで、何だか、恥ずかしいような気持ちになる。
こないだは人目もあったから、シンプルなピンクにGパンとか、そういう感じだったけど、今日は思い切って乙女チックなのにしたからね♪
私はこういうの普段好きなんです。
やっぱり、私は翔のことが好きで、独占したかったのかな。
本当はそういう気持ちじゃなかったんだけど、でも勝手にそういう気持になっちゃったのかな。
今日こそ謝らなきゃ。
「瞳、今日は元気?」
「うん・・・まぁ何とかね。」
「昨日、・・・・・泣いてたでしょ」
やっぱり気付かれてた?
翔はダンスに夢中で、気付かない振りしてただけだったのか。
「ごめん。瞳にはそういう思いしてほしくなかった。だから、昨日無理やりドライブに誘った。」
「こっちこそ、ごめん。」
私は、悪意のない翔に思わず謝ってしまった。
そして、やっぱりあふれ出る涙。
こんな思い、してほしくなかったのに、翔にだけは。
本当は、凄い無理してるんじゃないかな。
本当は、どうしたいんだろう。
自由に振舞えなくて、本当は、寂しくて、私を相手にしてくれただけなんだって分かっている。
だけど、本当は、私は分かっていない。
だって、私は翔を独り占めしたくて、昨日帰ってきたようなもの。
でも、今日はどうして来てくれたのか、本当は凄く聞きたかった。
翔は、私に何も聞かないで居てくれた。
私の心細さが身にしみるのかな。
今日はお互いの店が休みでよかったと思った。
本当はこのままにしちゃいけないと思った。
もしかしたら、予感してるのかな、翔も。
私たちに、終わりが来るなんて、思って、ないよね?
そんな悲しいこと。
だから、単なる現実逃避なのかな。
「瞳、元気出せよ。」
夕暮れの海沿い。
本当に綺麗だった。
また泣いてしまいそうだった。
本当は、翔に抱きつきたかった。
そして、夕闇の砂浜に翔は車を止めた。
周りには、人の気配もなく。
翔は、私の話を黙って聞いてくれてた。
私は、もともと人を信用できる力がないこと。
恋に奥手なこと。
「・・・・・・何となく、気付いてた。・・・・・・・・」
翔は、気付いてたらしい。
本当は、内弁慶だってことを。
私も、翔に出会うまでは仕事一筋でもいいと思っていた。
翔に出会ってから、前の自分に戻ってしまいそうな気がした。
好きな人が居ても、気持ちを伝えられなくて、その相手は、好きな人を作って、その人はずっとその相手と仲良くしていた。
そして、その相手はいつの間にか引っ越してしまっていた。
翔は人の気持ちに敏感なんだと思った。
貪欲って言うのかな。
よく分からないけど。
だから余計に、私は、気後れしそうだった。
でも、この瞬間、思ったこと
・・・それは、
”幸せになりたい”
今ある幸せを、大事にすれば、きっと、未来につながるかもしれない。
翔といる時間を、大切にすればいい。
きっと、それなんだと思う。
やがて、夕闇はとっぷり暮れ夜の闇が押し寄せてきた。
私はとたんに、心細くなった。
何も言わずに翔は、海岸沿いの素敵なお店の前に車を止めた。
ここは翔の友人が昔からやっているお店だそうだ。
原始的な、リゾート感覚の幻想的なお店。
メニューを見ただけでも、夏が恋しくなりそう。
でも、えらく場違いなような気がしていた。
翔は私をお店の人に紹介してくれた。
お店にいる翔の友人も、昔は翔と一緒のユニットにいたが、家の都合で、脱退した。
そして今はハワイアン風のお店を開いたという。
まだお客はまばらで、私たちはカウンター席に案内された。