「瞳、好きなもの頼んでいいから」
翔はいつもそう。お店でもそう言ってくれる。
どうしてそんなに、好きなもの、って言ってくれるんだろう。
でも、このお店はそんな安い値段じゃなかった。
ドリンクだけでも、500円は軽く越えてしまってる。
翔の友人が、おつまみを出してくれた。
「あ、これはツレのおごりだから、心配すんな」
翔は、本当に仲良しなんだなぁ、この人と。
私は、夜の街に本当に疎かったので、こういう世界は良く知らない。
翔に教えてもらいたいと思った。
でも、教えてもらうほど、後戻りできそうもない気がして本当は躊躇してた。
そして、私がいつも飲んでるカクテルと同じカクテルを出してくれた。
・・・頼んでもないのに?
本当に、何のつもりなんだろう。
「こいつ、女の子連れてきたの、初めてなんだ。祝わせてくれよ。」
そんな気がしないし・・・本当にそうなのかな。
でも、・・・どうなんだろう。
男の人って本当に本音なのか、建前なのか良く分からないや。
それでも嬉しかった。
翔と一緒にこうしてご飯食べれるんだもんね。
もう、今日しかないのかもしれないし、楽しまなきゃだね。
私、明日から又仕事だもん。
あのショーパブのカクテルもおいしいけど、こっちもやめられない気がした。
こっちはもっと、素材の味が生きてる気がした。
でも、どっちも翔がいるから好き。
比べられないもん。
翔は相変わらずジュースだけ。
お酒飲んだところを見たことはなかった。
今日は、バナナジュース。
お子ちゃまみたいだ。
いつもは、グァバジュースとかなのに。
結局、子供みたいに甘いものが好きなのかぁ。
よし、分かった。
てか、本当は気が引ける。
自分の仕事場になんて来られたりしたら、
きっと私なんて、仕事になんかなりゃしないんだろうなぁ...
翔はよく平気だな。
そのうち、まばらだったお客も段々増えてきた。
そんな時だった。
「あれ?・・・・・・翔???どうしてこんなとこにいるの???」
と違う女性が声をかけてきた。
ほら、やっぱり。
「おう、久しぶり、元気にしてた?」
やっぱり、ダンス仲間なのかな。
凄く色っぽいし、オーラがある。
髪の毛はロングで、縦ロール。
でもそんなきつきつに巻いてなくて。
適度に露出された肌。
全然私とは違う。
私は、構わずに出された料理を食べ続けた。
そのうち、私も翔に紹介された。
「え?翔彼女できたの?」
その女性はちょっと驚いたみたいだった。
その女性は、機転が利くし、話はうまいし、よく笑うし。
何だか凄く華がある感じだった。
「私もね、昔は翔と一緒にね、踊ってたことあるよ。
でも翔はやっぱり、プロ向きだったかな。
私は今も、趣味では踊ってるけど。
翔と近くなりたいっていうか、
近くに居たいっていうかなんていうか。
あの頃翔は私たちの憧れだったから。
今も変わらないけどね。
あなたは、ダンスとか興味ある?」
「私は、新体操とか、バレエなら、中学生の頃までやってました。ダンスは、やっぱり観るだけですね。」
そんなの初耳、と翔は言う。
「やっぱりでも、瞳さんはそういうのいいかもね。女の子らしいし。」
何だか、話に入っていけないような気がした。
その女性は、瑠美。
本当は、翔と瑠美さんは昔はとてもいい仲だったんじゃないかな。
今は違っても。
「瞳さん、今日は逢えて嬉しい。本当はずっと翔から、瞳さんの話を聞いてたの。またこっちに遊びに来てくれたら嬉しい。もっと瞳さんのことを知りたいから。」
にこやかで、悪意のない笑顔が、本当は怖かった。
でも、闘いはこれからなのかな。
ずっと瑠美は私たちと同席だった。
瑠美はこの近くに住んでいるらしかった。けど仕事が忙しいせいで、中々ショーパブに遊びに行けないから、この店にずっと通って、翔の帰りを待ち続けていたらしい。
「本当は、ダンスはまだ趣味だけど、翔に負けたくないから、いつかは・・・って思ってはいるけど。でも翔には勝てないなぁ。翔は昔から才能あったからね・・・見てて凄く羨ましかった。」
本当に瑠美さんは元気のいい女の人だった。
瑠美さんは、ファッション関係の仕事しているらしい。
でも、お洒落だからそんな感じ。
翔に似合いそうなのは、瑠美さんみたいな人だと思ってしまう。
なんだかこんなとき、才能を持たない私は、埋もれてしまいそうになる。
ここは、翔の仲間関連のお店だから仕方ないと諦めようと思った。
でも、そんなことに関係なくこのお店の料理や、飲み物は文句なしにおいしいと思った。
料理も凄く色も多彩で綺麗だった。
お腹いっぱいになった頃、また、大きなデザートが出された。
トロピカルパフェ。
トロピカルフルーツがたくさん載っている。
凄い色とりどりでお洒落なデザート。
私は何も喋れてない。
瑠美さんのペースにはめられてばかりだった。
飲みたかったはずのカクテルも、半分以上残してしまった。
それを瑠美さんが綺麗に飲み干してくれたから良かった。
でも、なんか、宣戦布告なんじゃないかと思ってしまう。
ねぇ、これから、何が起きるの?
私にはまだ知らないことがいっぱい。
翔もさっきから無言で食べ続けてる。
彼女のペースにはまってしまってる気がする。
「送るから、帰ろう」
「待って、翔」
瑠美さんが甘い声で呼び止める。
「今日は、久々に逢えて嬉しかった。ありがとう。私が払っておくね」
「ああ、サンキューいつも悪いな」
私は瑠美さんに頭を下げて、手を振った。
なんて素敵な人なんだろう。
「ごめんな、瞳。瑠美は昔からああいう奴だから、気にしないでくれ。」
本当は凄く気になって仕方ないけど、
「ううん、気にしないよ、だってとても素敵なお姉さんだもん」
と明るく言ってのけた。
帰る途中で、翔が半端じゃなく悲しそうな顔をしたのを、私は見逃さなかった。
家につくころには、もう、12時まわりそうだった。
本当にたくさんの話を聞いた。
翔はたくさんの人にはぐくまれて育ってきたんだということ。
私は知らないことが多すぎた。
だけど、やっぱり翔の悲しそうな顔が気になって。。。。離れない。