その後、偶然、サントラを一曲担当。それを聴いた別のプロデューサーからアニメ映画の音楽をオーダーされた。「アニメはユーザーが若いので、楽曲作りに制限がなくすごく自由。許容範囲が広いというか<なんでもあり>の世界だった」。実写映画の音楽も担当したが、それよりはるかに自由な環境で「これからの世界はこっちだな」と時代を先読みした。
劇場版『空の境界』シリーズ
7シリーズすべての主題歌を梶浦が手がける。2007年12月1日より、テアトル新宿にて順次レイトショー公開。公式サイトはhttp://www.karanokyoukai.com
(C)奈須きのこ/講談社・アニプレックス・ノーツ・ufotable
マニアの間で熱狂的な評判となっている劇場版『空の境界』シリーズの音楽は全7章あるため、各章ごとのエンディングテーマを、好みの声を使って7パターンプロデュースすることになった。梶浦好みの声質とは「艶(つや)と張りがあって、伸ばしただけで(倍音のある)泣ける声」。哀愁漂う泣ける声にも、太い声、細い声、高い声、低い声がある。オーディションをしてそれぞれの歌い手を選抜した。
第三章のテーマ曲は、J-POPでも通用する普遍的な楽曲だが「8分の6拍子の曲なんです。私って、ほっておくと全部(グルーヴ感のあるワルツといっていい)8分の6拍子の曲になるので、これでも抑えているんですよ(笑)」。
ただJ-POPの歌詞は「軽そうだけど、サビでキュンとくる構成だし、流行のボキャブラリーも必要。私の重い曲には合わないと思う」。だが、日本の音楽を聴いていない(今も日本の歌番組、ドラマは一切関心がない)という長所は、実は音楽業界が密かに待望していた才能だ。カラオケで歌う習慣のない辺境(沖縄、奄美、石垣、隠岐出身など)の歌姫が持つ圧倒的な歌唱力が、のどだけで歌う従来の日本の音楽業界を再編したのと同じ。“異文化”こそが、閉塞した現況を打破する。それを裏付けるように海外での梶浦由記の評価は国内よりはるかに高い。
「ゲームやアニメのクリエイターのほうが若い世代が多いので、いい曲が作りやすい」という日本のレコード業界にとって耳の痛い言葉もあった。J-POPの救世主になる素質の持ち主ゆえ、レコードメーカーにはぜひとも楽曲の発注をお薦めする。(文中敬称略)