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企業立病院は医療法改正で
どう対応すべきか?

 企業は出資額を、現行法でも回収することは出来ない。利益を目的として出資を保有し続けることは出来ないことになる。
 解散して、残余財産の分配を受けることはできない。
 解散は、医療審議会が同意しないので、県は解散認可しない。
 企業は社員になれないので退社ということはありえないので、払戻しを受けることができない。

参考
企業立病院は減少し続けている

 そのためもあり、企業立病院は、戦後一貫して減少し続けている。正確に言えば、1985年の国鉄・電電公社の民営化により一時的に増加したが、その後は再び減少に転じている。1990〜2000年の10年間では85病院から67病院へ21.2%も減少している。これは、同じ期間の病院総数の減少率8・2%の2.6倍の高さである(厚生労働省『医療施設調査・病院報告』)。特に近年は、長く不況により病院事業から撤退したり、撤退を検討する企業が急増している(『フェイズ3』2002年4月号特集)。例えば、2002年4月に京都のユニチカ中央病院が有力医療法人(武田病院グループ)に売却されている。
「企業立病院の減少傾向はその後加速し、2000〜2003年のわずか3年間で新たに9病院も減少した。これらの病院の内訳は、医療法人化2病院、医療法人・財団法人グループへの経営移譲4病院、市町への移譲2病院、診療所化1病院である。しかも、医療法人化した1病院はその理由を「病院独自に早く意志決定できるようにするため」と発表している(日本鋼管福山病院。「中国新聞」2001年7月7日)。また、市町へ移譲された2病院について、小山秀夫氏は「2つとも町と市が無理矢理買わされたのです。これは事実です」と証言している(第8回これからの医業経営の在り方に関する検討会議事録。2002年10月15日)」。
 さらに、最近の真野俊樹氏らの、病院の経営母体の違いに着目した「医療情報開示の調査」でも、「会社立であるから情報提供に積極的であるとか、新しい手法を生かしているという結果は得られ」ていない。
 以上の事実から、現在の企業立病院が「効率的な経営」や「効率的な医療の提供」を行っているとは言えず、株式会社参入による医療の効率化や医療の質の向上が幻想にすぎないことが分かる。

企業立病院のお粗末な経営実態
 論より証拠。現在の企業に病院経営能力がないことは、企業立病院の経営実態をみれば分かる。もし企業が本当に病院経営のノウハウを持ち、「効率的な医療を提供」しているとしたら、当然、企業立病院の大半が黒字になるはずである。しかし、全国の企業立病院のうち、恒常的に黒字なのは、上述した麻生飯塚病院くらいと言われている。しかし、この病院は、麻生セメントの創立者の麻生太吉が、筑豊地方に公的病院がまったく無かった時期に、言わば篤志家的に作った地域貢献型の病院であり、単に従業員の福利厚生目的で建てられた一般の企業立病院とは、全く性格が異なる。企業立病院は、「総じて収支は赤字で、本社も病院を『経営』している意識があまりない。いわば赤字補填が当たり前の自治体病院と同じ構造」とさえ言われている(竹本智明氏。『日経ヘルスケア21』2002年3月号)。
 残念ながら、企業立医療機関(2000年現在67病院・2759診療所)の経営状況は非公開である。しかし、実態的には企業立と言える健康保険組合の病院・診療所(同年現在18病院461診療所)の赤字総額は、毎年200億円を超えている(1999年218億円)。これから類推すると、全国の企業立病院・診療所の赤字総額は毎年800〜1000億円に達する。これが一般の民間病院であれば、大半が倒産に追い込まれていたであろう。

株式会社の大半は病院経営のノウハウを持っていない
2番目に指摘したい私の事実確認は、株式会社の大半は病院経営のノウハウを持っていないことである。
 医療関係者の中には、株式会社(特に大企業)が病院経営のノウハウと資金力を持っており、参入が認められれば、大企業による病院支配が生じると心配されている方が少なくない。企業関係者の中にも、「いままでの医療機関は効率的な医療を提供していない・・・・・われわれ(株式会社)がやったほうがよほどいい医療を提供できる・・・お手本としてみせてやりたい」と豪語するほうもいる(若杉史夫・日本経営者団体連盟社会保障特別委員会副委員長(当時)。『GPnet』2001年10月号)。総合規制改革会議も、2001年の「中間とりまとめ」で、「株式会社は投資効率や資産効率の向上による利益の増大や企業価値の増大をめざす経済主体であり、そのため、徹底した顧客満足の向上・サービスの向上やコストを省く効率的な経営に資する」と主張した。

病院経営のノウハウと資金力を持っている大企業は2グループだけ
 しかし、これは大企業の力の買いかぶり・過言である。なぜなら、病院経営のノウハウと資金力の両方を持っている大企業は麻生グループとセコムグループだけであり、「三番手企業」がないのは、関係者の常識だからである。
 麻生グループは、80年以上の伝統を有する麻生飯塚病院で大規模急性期病院の経営ノウハウを蓄積しており、1993年にはそれをペースにした病院コンサルティング事業を立ち上げている。セコムは、公表された範囲で2病院を実質的に経営しており、病院経営のノウハウをそれなりに蓄積している。
 多面、両病院の経営は必ずしもうまくいっておらず、その結果、最近は直営よりも、先進的な医療機関と業務提携し、そこに資金や土地を提供し、それの見返りにその医療機関の経営ノウハウを獲得するという間接的参入に比重を移していると言われている(『日経ヘルスケア』2001年2月号および2002年6月号の特集等)。「セコムは2003年7月現在、上記2病院以外に提携病院を11病院持っている」。

大企業が病院経営のノウハウを持っていない2つの理由
 私が、両グループ以外の大企業が病院経営のノウハウを持っていないと考える理由は2つある。そもそも、一部の優良企業を別にすれば、大企業一般が卓越した経営能力を持っているとは言えない。田中滋氏が明快に指摘しているように、「もし営利企業の意思決定が資源配分を効率的にするのなら、バブル経済など起きなかったはず」だし、「バブルに踊って日本経済を悪くした産業は決して医療セクターではなく、営利企業」だったのであり、「営利企業が効率的との理解は当たっていないからである。
 もう1つの理由は、たとえ優良企業であれ、一般の企業の経営ノウハウはそのままでは病院経営には通用しないからである。その最大の理由は、医師は弁護士と並んで独立性・自律性もっとも強い専門職であり、管理がきわめて困難だからである。医師である院長にとってさえ勤務医の管理は難しいのに、医師以外の職種では、その人物がたとえ一般的な経営能力を持っていたとしても、医師を管理することはほとんど不可能である。。これは、日本だけでなく、医療の営利化・企業化が日本とは桁違いに進んでいるアメリカでも確認されている経験則である。