世襲議員への世論の反発は、日増しに強まっている。大半の世襲議員を抱える自民、民主両党もようやく規制が必要と、具体策作りに入った。
民主党は政治改革推進本部の公選法見直し小委員会(野田佳彦小委員長)で、検討を進めている。死亡、引退した政治家の資金管理団体は解散させ、相続を禁止する法案をまとめ、自民党にも同調を呼びかける方針だ。また、世襲の範囲を線引きするため、党内アンケートを実施し、具体案をまとめる。
一方、自民党では菅義偉選対副委員長を中心に議員連盟を設立、定数削減と並んで世襲候補の制限案作りに着手する。世襲の範囲などを詰め、党の公認候補決定段階で制限を加える党の内規を定め、次期総選挙でのマニフェストにも盛り込むことを目標にしている。
世襲批判がここに来て高まった第一の要因は、祖父、父が首相経験者のここ3代の首相のふがいなさにあるだろう。安倍晋三、福田康夫両首相は1年ほどで退陣。麻生太郎首相も人気低迷にあえぎ、発足から半年で自民党内からも退陣要求が出されている。一方、スリムな政府を目指し、官僚の特権は見直されている。「世襲議員」は既存政治家の特権の象徴だ。このまま放置しては、政治不信は増大するばかりだ。
派閥政治全盛時の自民党政権人事は当選回数主義が基本だった。若くとも当選可能性が高い世襲議員は、年齢の割に閣僚、党役員などの要職を歴任しやすい。自民、民主両党の幹部に世襲議員が目立つのも、回数主義の名残と考えられる。
05年の総選挙で国会議員の現職か経験がある父母、祖父母(義理、養子先を含む)を持つ立候補者は毎日新聞の調べでは166人で、うち133人が当選している。新人の「世襲候補」の当選率は59%だが、自民、民主両党の「非世襲候補」は38%にすぎない。
世襲候補は当選の必須要件といわれる「カンバン(知名度、経歴)」「カバン(選挙資金)」「ジバン(後援会)」の整備が、容易だ。政党助成金制度の導入で政治資金には公的資金も含まれるようになった。にもかかわらず先代の政治資金管理団体や政党支部を事実上、世襲するケースも少なくない。当然、相続税は課税されていない。
変革期を迎え、政治家の資質が大いに問われている。人材源の拡大が急務なのに、世襲候補を放置したら、多様な人材の政治への進出は困難になるばかりだ。自民、民主両党の「開かれた政党」度が試されている。
毎日新聞 2009年3月9日 東京朝刊