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追跡やまがた:模擬裁判から見る被害者参加制度 制度の意義、再考を /山形

 ◇心情重視せず判例参考に量刑評議

 5月から始まる裁判員制度を前に、犯罪被害者の遺族らが法廷で意見や求刑を述べられる「被害者参加制度」を導入した模擬裁判が山形地裁で2日間かけて初めて開かれた。遺族の声がどう量刑へ影響を及ぼすかが注目されたが、ある模擬裁判員は「被害者の身になって考えはしたが、量刑を決めるにあたっては過去の判例を重視した」と話すなど、結局、判例に沿った無難な判決に落ち着いた。昨年12月に始まった被害者参加制度だが、5月に始まる裁判員制度で選任される裁判員は裁判の素人。被害者参加制度で、被害者感情を酌んだ量刑判断をするのは困難ではなかろうか。【浅妻博之】

 飲酒運転で正常な運転が困難な男(50)が、対向車線にはみ出し、男性(57)を死亡させた、という想定の危険運転致死事件で模擬裁判は開かれた。審理したのは男女3人ずつの裁判員と裁判官3人の計9人。被害者参加人の意見陳述では、妻役の女性が「最も重い刑(懲役20年)にしてほしい」と危険運転致死罪での最高刑を求め、被害者参加人の弁護士は懲役10年を求刑した。一方、検察側は7年を求刑し、弁護側は4年以下を主張した。

 評議に移ったのは2日目。過去の危険運転致死罪の判例や、殺人罪や傷害致死罪の判例も参考に量刑を評議した。「飲酒運転撲滅運動が社会的に盛んになる中の飲酒事故。(弁護側が主張する)4年以下は軽すぎる」「(手紙などで謝罪の意思を示し)まるっきり反省していないわけではない。5~7年が妥当ではないか」などと模擬裁判員。被害者の心情を酌み取ろうという意見は出なかった。量刑は懲役5年6カ月の4人(裁判員3人、裁判官1人)と、懲役5年の5人(裁判員3人、裁判官2人)に割れ、結局、懲役5年が言い渡された。

 「人が死んでいるのだから懲役10年以上という気持ちできたが、知識がない分、裁判所の資料を読んで判断が狭められ、判決を決める際に自分の中で上限ができてしまった」。模擬裁判後の会見で参加した女性から戸惑いの声が漏れた。

 裁判長役を務めた山形地裁刑事部の伊東顕裁判官は「量刑資料に縛られる必要はないと強調したつもりだったが、伝わらなかったかもしれない」と話す。被害者参加人の弁護士役を務めた遠藤凉一弁護士は「被害者感情を盛り込むというのであれば、過去の判例のプラスアルファがあってもいいのではないか」とやや不満なようだ。

 被害者参加制度は、従来は傍聴人に過ぎなかった被害者の「裁判に当事者として参加したい」という要望で創設された。「法律の専門家でない裁判員が、被害者の生の声を聞くことで感情的になりすぎないか」「法廷が復讐(ふくしゅう)の場になるのではないか」などの懸念も指摘されている。決して量刑を重くするための制度ではない。

 だが、裁判員が判例に沿った無難な判断を下すだけだとしたら、被害者は何のために意見を陳述するのか、ということになりかねない。課題が浮き彫りになり、裁判員制度実施までには、まだ模索が必要だ。

毎日新聞 2009年3月8日 地方版

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