【事故例】交差点における右折車と直進車との事故(右直事故)

(同一道路を対向方向から進入した場合)

 

『別冊判例タイムス』No.15「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」
(平成9年全丁3版)47〜54図より引用。

基本過失割合

ケース Aの信号 Bの信号 Aの割合 Bの割合
20 80 A・B双方とも青信号で進入
70 30 A黄進入、B青進入の後黄信号で右折
40 60 A・B双方とも黄信号で進入
50 50 A・B双方とも赤信号で進入
80 20 A赤進入、B青進入の後赤信号で右折
60 40 A赤進入、B黄進入の後赤信号で右折
100 A赤進入、B右折青信号で右折
信号機により交通整理が行われていない交差点 20 80 A直進進入、B右折
 (赤点滅・黄点滅は本基準を適用)

進行妨害の禁止

 道交法第37条には、右折車の直進および左折車両に対する「進行妨害の禁止」が規定されています。
右折車が右折を継続または始めれば、直進車が速度や方向を急に変更しない限り車両が接触、あるいは
その危険が発生するおそれがある場合は、右折車は直進車の通過を待たなければならないとされており、
このような関係における直進車の右折車に対する優先性は明らかです。

道交法37条(進路妨害の禁止)
「車両等は、交差点で右折する場合において、当該交差点において直進し、又は左折しようとする車両等があるときは、当該車両等の進行妨害をしてはならない なお「右折する場合」とは、交差点において車体の向きが直進状態から右に変わり始め、交差道路の方向に完全に向きが変わるまでを言います。 

 しかしながら、直進優先といえども、道交法36条4項による注意義務が免除されるものではなく
具体的事故の場面では直進車にも前方不注視やハンドル、ブレーキ操作の不適切など何らかの
過失が肯定される
ことが多く、本事故例では、直進車にもそのような通常の過失があることを前提
としてしています。

道交法36条の4(交差点における他の車両等との関係)
車両等は交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない

道交法35条2項(左折又は右折)
「自動車、原付自転車又はトロリーバスは、右折するときは、右折するときは、あらかじめその前からできる限り道路の中央に寄り、かつ、交差点の中心の直近の内側(道路標識等により通行すべき部分が指定されているときはその指定された部分)を徐行しなければならない」

信号機の灯火の判断ポイント(道路交通法施行令2条)

 「信号灯火」で特に注意が必要なのは、黄色進入を争点とした過失判断についてです。この場合のポイントは、運転者が交差点進入直前で何色の信号を確認していたかという点です。
 何色の灯火を見ていたのかだけでなく、どの地点でその灯火を見たのか(交差点内か進入直前か)も含めて確認しましょう。

「直進車が交差点に入った時点で信号が黄色に変わったケース2・・・

 運転者が交差点直前で青信号を確認し、進入とほぼ同時に黄色に変わったものであれば、道交法施行令では、黄色で停止位置を越えた場合でも『黄色の灯火の信号が表示された時において当該停止位置に接近しているため安全に停止することができない場合を除く』と違法性が否定されており、本件の場合は黄色進入の適用には該当しないケース。 
※ケース2(直進車が黄信号で進入、右折車が青で進入後、黄信号で右折した場合)の適用直進車の黄色進入が違法とされない場合(施行令2条1項2号ただし書(注3))は、ケース1を適用することとなる点注意を要します。

<注3:道路交通法施行令2条1項2号信号の意味等(−黄色信号−)
「車両及び路面電車は停止位置をこえて進行してはならないこと。ただし、黄色の灯火の信号が表示された時において当該停止位置に接近しているため安全に停止することができない場合を除く」

右折方法は適法か?(道交法34条2項:右折方法違反)
−B車側の過失ポイント

道交法34条2項(右折方法違反 
自動車、原動機付自転車又はトロリーバスは、右折するときは、あらかじ めその前からできる限り道路の中央に寄り、かつ、交差点の中心の直近の内側 (道路標識等により通行すべき部分が指定されているときは、その指定された 部分)を徐行しなければならない。

1.徐行なし
 徐行は右折としての通常速度を意味し、必ずしも法律上要求される徐行(注4)でなくても構いません。一定程度の減速があればよいと言えます。
 一方で、直進進行時と同速度で右折開始となった、タイヤをきしませていた(スキール(注5)発生、スリップ痕付着)などの事実がある場合は徐行なしと考えられます。

「徐行もしないで右折してきたのだから修正要素を適用する」とのA車側の主張・・・

 交差点進入時には減速しており、右折車としての通常の速度で進行しており、右折車には、必ずしも法律上の徐行は要求されておりませんし、スキールもスリップ痕もないことから、徐行なしには該当しないケース。

<注4:徐行>
 道交法2条1項20号徐行の規定。徐行=車両が直ちに停止することができるような速度で進行すること。
<注5:スキール>
  急発進・急制動・急旋回時にタイヤの一部が路面に対して起こした時の「キー」と言うような一時的な音

2.直近右折
直進車の至近距離で右折した場合です。つまり、直進車が通常の速度で停止線を越えて交差点内に入る付近まで来ているときに右折開始したため、衝突したケースです。

「直進車がすでに交差点に進入しているのに直前で右折された。直近右折だ」とのA車側の主張・・・

 右折開始時には直進車を交差点から約50メートルほど向こうで確認しており、また、右折開始直後に衝突していることから、直進車のスピードは60q/h以上は出ていたと推定されますので、直近右折には該当せず、むしろ直進車のスピード違反が事故の主因。
<確認ポイント>
右折車から見た直進車の右折開始時の位置を確認しましょう。

3.早回り右折
交差点の中心の直近の内側(道路標識等により通行すべき部分が指定されているときはその指定された部分を進行しない右折をいいます。

「右折車が斜めに交差点を進行してきたので早回り右折と考えている」とのA車側の主張・・・

<確認ポイント>
 衝突地点が、交差点中心より、交差道路に対して、右折車が進行してきた道路寄りか否かを確認しましょう。

4.大回り右折
 あらかじめ道路の中央に寄らない右折をいいます。つまり、中央に寄る右折を「内回り右折」、寄らない右折が「大回り右折」となるのです。
<確認ポイント>
 大回り右折を「交差道路相手側まではみ出た右折方法」と誤って捉えていませんか?右折の開始が進行してきた道路のどの地点からせあるかを確認しましょう。

5.合図なし
 右折し、又は回転するときは、その行為をしようとする地点(交差点において右折する場合にあっては、当該交差点の手前の側端)から30メートル手前の地点に達したとき(道路交通法施行令21条)と規定されています。
 右折車が適法な合図を行っていたかについても確認しましょう。

6.大型車
 右折車が大型車(注6)の場合(直進車が大型車の場合は考慮する必要なし)は、直進車に対する進路妨害の程度が大きく、回避可能性が少なくなることから修正要素となっています。右折車両の車種確認がポイントです。

 なお、大型車が大回りをしたことが原因で発生したような事故については以下の修正加算を行います。
  大型車が大回り右折した場合:大型車5%+大回り5%=計10%の修正

<注6:大型車>道路交通法施行規則第2条(大型車の定義)
大型特殊自動車、自動二輪車普通自動二輪車及び小型特殊自動車以外の自動車で、車両総重量8T以上もの、最大積載量が5T以上のもまたは定員が11人以上のもの

交差点への進入方法は適法か?(道交法第50条)
−A車側の過失ポイント

1.道交法50条
 道交法50条1項では、混雑する交差点等への進入禁止について規定しています。

交差点の混雑具合を確認していますか?
→交差点の混雑程度まで確認することで、直進車に10%の過失修正を行うことが可能です。
進路前方の車両等の状況により、交差点内に入ると当該交差点内で停止することとなって、交差道路における車両等の通行の妨害となるおそれがあるときは、当該交差点に入ってはならないとしています。
 「当該交差点内で停止・・・車両等の進行を妨害する・・・」とは、『交差点内における車両等の進行を妨害するおそれがある』ことが要件となるので、例えば、交差点内の幅員が広く、交差点内で停止しても交差道路を進行する車両の進行に十分な余地があるなど、進行妨害のおそれがない時は、たとえ交差点内で停止したとしても、ただちに本条に違反することにはなりません。
 進行道路および交差点内の混雑状況、当該交差点の道路幅などをしっかり確認しましょう。

 道交法50条1項(交差点等への進入禁止)
交通整理の行われている交差点に入ろうとする車両等は、その進行しようとする進路の前方の車両等の状況により、交差点(交差点内に道路標識等による停止線が設けられているときは、その停止線をこえた部分)に入った場合においては当該交差点内で停止することとなり、よって交差道路における車両等の通行の妨害となるおそれがあるときは、当該交差点に入ってはならない」

2.スピード修正
 直進車のスピード違反15q/h以上で+10%、30q/h以上で+20%の修正要素となります。A・Bいずれの立場になったとしてもスピードについての情報収集が重要になります。

その他の留意点

1.ケース7 (直進車が赤信号で進入、右折車が青矢印により右折可の信号で進入)の適用

 右折車と直進車との間に障害物がなく、右折車がわずかに前方を注意すれば直進車の速度から見て進入を認識し得るのにそれを怠った場合には、右折車に20%不利に適用します。なお、右折車に先行・並行右折車があって、直進車の認識が容易でない場合は、この修正は適用しません。

 直進車の信号無視として即100:0を適用していませんか?(A車の立場)
 →右折車の位置と障害物の有無を確認することで右折車への修正が可能となる場合があります。

2.ケース8 (信号機により交通整理が行われていない交差点)適用時の留意点

@右折車の既右折直進車に20%不利に修正) 直進車が交差点進入時に、右折車が右折を完了しているか又はそれに近い状態にあることを言います。既右折か否かは損傷の入力状況や衝突後の車両の停止状態等を確認することで判断し易くなります。
A著しい過失直進車に10〜20%不利に修正) 直進車が全くの減速無しで交差点内に進入することは著しい過失ととらえ、直進車の10%加算修正が可能です。信号機のある交差点での事故同様、右折開始時の直進車の位置をきちんと確認しておきましょう。

過失割合は、道路交通法の規定による優先関係や弱者保護などを勘案して定まります。
2 交差点における右折車と直進車との事故
過失割合と道路交通法