東京都練馬区のアパートに暮らす韓国人女性、全賢貞(チョンヒョンジョン)さん(24)は最近、アルバイトの掛け持ちを始めた。昨年7月、就労が可能なワーキングホリデー・ビザで来日したが「予想をはるかに超えるウォン安」(全さん)が進むためだ。
ソウルの専門学校で日本語を学んだ全さんは07年末、「語学を生かせる仕事に就きたい」と勤め先を退職。だが、国内は就職難で新たな仕事が見つからないこともあり、日本行きを決めた。
来日を果たしたものの、李政権誕生直前の昨年2月20日、100円=878ウォンだったレートが1年後の今、ウォンは半分の価値しかない。手持ちの自国通貨は急落し、複数のバイト先を回るわけだ。
ソウル中心部にある日本大使館領事部は今月2~6日、若者らでごった返した。今年第1期の同ビザ申請者はソウルだけで約3000人に達し、過去最高。だが、日本でも全さんのような厳しい生活が待つ。
韓国統計庁によると、1月の失業率は全体で3・6%。特に15~29歳は8・2%と深刻で1年前に比べ1・1ポイント悪化した。07年末の大統領選で李氏は幅広く票を集め、10年ぶりに保守政権奪還を果たした。公約は「747政策」。「年平均7%の経済成長を続け、10年以内に1人当たり国民所得4万ドルを達成し、国内総生産で世界トップ7に入る」約束だった。
だが、ウォン安に不動産バブル崩壊などが加わり、経済危機の渦が広がる。今年の経済成長率はマイナス2%前後になると予想される。
大韓生命経済研究院の崔聖煥(チェソンファン)常務は「97年のアジア通貨危機以降も輸出はよかったが、今回は違う。内需も不振だ」と指摘する。
21日、李大統領はテレビ番組で「一にも二にも、そして三にも『働き口』を確保する」と、雇用対策に全力を傾けると強調した。しかし、ソウルの女子大を卒業したばかりのハ・ナレさん(23)は「世界的不況とはいえ、大統領に失望した」と不満を口にする。ハさんも就職先は未定だ。
李政権浮揚の成否は「経済」に尽きる。財界出身大統領の手腕への国民の期待は1年の歳月とともに、しぼみ始めた。
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韓国の李明博(イミョンバク)大統領は25日、就任から1年を迎える。「国家のCEO(最高経営責任者)になる」と華々しく登場したが、荒波の中で苦しい政権運営が続く。【ソウル西脇真一】
毎日新聞 2009年2月24日 東京朝刊