インターネットでマニュアルを入手し、爆弾を造りだそうとしたとして、札幌市の高校1年の男子生徒(16)が殺人予備の疑いで北海道警に逮捕された。家1軒をも吹き飛ばしてしまう威力の爆弾。「バカにされたと思い、同級生を見返したかった」。疎外感による歪(ゆが)んだ殺意は、男女35人のクラスメートに向けられた。生徒は教室を爆発させる「殺害計画」を思い浮かべながら、家族や隣人に気付かれることなく、自室で黙々と爆弾を造り始めていた…。
[フォト]爆弾の製造方法が載ったサイトが氾濫
■ロンドン同時テロでも使われた“超危険”な爆発物
「オレは殺神(さつじん)!! オレをバカにしてきた奴を消すことが生きがい。逆らったやつの首を切り落とす」
こんな殺人予告のメールを同級生(16)の携帯電話に送信したとして、札幌・西署が脅迫容疑で、札幌市北区の道立高校1年の男子生徒を逮捕したのは、2月6日のことだった。
これだけなら単なる生徒間の脅迫事件だが、捜査員らは間もなく生徒の殺意が本物だったことを知り、背筋を凍らせることになる。
同署は同日、生徒の自宅を家宅捜索。生徒の部屋の押し入れにあった4つの段ボール箱の中に、大量の爆弾の原材料や製造器具が整然と並べられているのを発見したのだ。
硫黄粉末1キロ、木炭3キロ、過酸化水素水が含まれる漂白剤、キャンプ用固形燃料、精製塩、水筒2本、電子秤、計量カップ、すり鉢、温度計、ビーカー、ねじ、びょう…。
押収品は実に計50点に上った。
ねじやびょうは殺傷能力を高める目的で爆弾に入れるために用意したとみられ、硫黄と混ぜて火薬を作り出すためか、すでに木炭の一部はすり鉢で粉末にされていた。
「教室で爆発させるつもりだった」
同署の調べに、そう供述しているという生徒は、有機過酸化物爆薬と黒色火薬を混ぜた爆弾の製造を計画していた。
有機過酸化物爆弾は2005年の英ロンドン同時テロでも使われた“超危険物”である。
爆弾は完成していなかったが、同署は押収物から実際に人を殺害できる爆弾を造ることが可能だったと判断。2月26日、殺人予備の疑いで生徒を再逮捕した。
生徒の爆弾が爆発すれば家1軒を吹き飛ばすほどの威力があったとされ、道警によると、生徒も周囲の教室にまで被害が及ぶ可能性があることを認識していたという。
■相次ぐ手製爆弾事件の背景に…氾濫するマニュアル
「ネットで爆弾が造れることを知った」
こうも供述しているという生徒。道警は生徒が自室にあったパソコンを使い、ネットで爆弾製造マニュアルを入手したとみている。
かつて爆弾の製造方法は、「腹腹時計」(昭和49年3月年発行)をはじめとする極左過激派による出版物などで伝えられていた。だが今では、市販薬品などから製造する方法がインターネット上に氾濫(はんらん)しているのが現実だ。
ペットボトルとドライアイスによる簡単な構造の爆弾の造り方から、米陸軍の爆発物マニュアルとみられる物まで、外国語のサイトも含めれば無数の情報を閲覧することができる。手製爆弾の爆発動画や製造過程を映した動画も珍しくない。
ネット情報を参考に爆発物を造ったとみられる最近のケースは、皇居に向けて消火器爆弾を発射したとして爆発物取締罰則違反容疑で元陸上自衛官が逮捕された事件(昨年9月)や、西武新宿線の爆破を狙い自宅に爆弾を所持したとして同容疑で元会社員が逮捕された事件(平成19年6月)などがある。
「無力感の大きい人間は威力のある武器を手に入れたがる。日本は銃の規制が厳しいので、ネットを見て簡単に作れる爆弾に走るのではないか」
立正大文学部の小宮信夫教授(犯罪社会学)は、手製爆弾事件が頻発する背景についてこう分析する。
ある警察幹部は「問題を深刻にしているのは、ネット情報は子供も見られるという点だ」と指摘する。
今回の事件と同じように、10代の少年が爆弾を手作りした例は意外に多い。
当時高校2年の男子生徒(16)が東京都江東区の新交通システム「ゆりかもめ」の駅に時限式爆弾を仕掛け、爆発した事件(14年7月)▽所沢市の当時中学3年の男子生徒(15)が鉄パイプ爆弾を作った事件(16年10月)▽山口県光市の県立高校3年の男子生徒(18)が火薬入りの瓶を教室に投げ込み、58人が負傷した事件(17年6月)−。
いずれの容疑者も「ネットで爆弾の知識を得た」との供述をしていたという。
■小遣い8万円で材料購入…「春休みまでには爆発」
「自分は偉いのに同級生に対等に話しかけられ、バカにされたと思った。見返してやろうと思った」
生徒が供述したという犯行の動機だ。
道警によると、生徒は1月中旬に爆弾の製造を計画。近くの量販店やネットで少しずつ買い集め、爆発物の材料を隠していた自分の部屋には家族を一歩も入れなかったという。
「お年玉などを使わずにとっておいた8万円で材料を購入した」
クラスメート全員を殺害しようとした爆弾の材料費は、高校生の小遣いで十分だったのだ。
警察当局は、アセトンなど爆発物の原料となりうる薬剤の大量購入など不審な動向があった場合、各都道府県警に連絡するよう全国の薬局などに要請している。
しかし、「レジなどで怪しい人には気を付けているが、度を超して警戒すると『疑っているのか』『なんで売らないんだ』などと因縁を付けられることがある。売った物すべての使い道なんて把握できない」(流通関係者)というのが実情だ。
生徒が通った高校の教頭は神妙に話す。
「まさかという気持ち。在校生にショックを与えたと思うと申し訳ない」
学校関係者や道警によると、今のところ生徒に対するいじめの事実は確認されていない。
生徒は陸上部に所属し、成績は普通。「手先が器用でおとなしく、生活態度に問題ない生徒だった」(道教委関係者)というが、2学期の後半から感情の起伏が激しくなった。
「授業中に突然、大声や奇声を出していた」(同)
教諭や同級生が注意しても無視するようになっていた。脅迫容疑で逮捕される2日前の2月4日には学校に折りたたみナイフを持ち込み、ちらつかせていた。
「特定の誰かを狙ったのではなく、対社会、対学校への不満を爆発させた犯罪が続いている。疎外感を募らせ、人生を大転換させたいという考えだったのだろうか」
小宮教授は生徒の心中をこう推察し、米オレゴン州の高校での銃乱射事件や、秋葉原の無差別殺傷事件に似た雰囲気を感じると話す。
「爆弾は造っていく過程で好奇心が高まる。造っている途中で、『これで復讐できる』と興奮していたのではないか」
あまり後悔した様子を見せず、淡々と調べに応じているという生徒は、具体的な計画についてはこう供述しているという。
「遅くとも3月の春休みまでには教室で爆発させるつもりだった。爆発させて逃げた後は、自分も死のうと思っていた」
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