自民、公明両党の水俣病に関するプロジェクトチームが6日、最終解決のための特別措置法案を了承した。水俣病は公式確認からまもなく53年となる。被害者の高齢化も進んでいる。そうしたことを勘案すれば、抜本的な救済を急ぐことは当然だ。問題はその内容である。
第二次世界大戦後の経済復興から高度成長の過程で発生し、被害が拡大したのが水俣病である。責任は水銀をたれ流しにしたチッソ、それを規制しなかった行政が負っている。最終決着というのであれば、真に被害者の立場に立ったものでなければならない。ところが、与党の特措法案には、まだ問題が多い。
第一は、公害健康被害補償法の認定基準に踏み込んでいない点だ。
現在の国の公健法認定基準は二つ以上の症候があることだ。水俣病関西訴訟の最高裁判決(04年10月)は大阪高裁の一つの症候でもメチル水銀中毒と認められるとの判断を追認した。公式確認50年に向け環境省が設けた検証のための懇談会も、救済・補償の恒久的枠組み作りを提言した。
ともに、公健法の認定基準見直しを求めていることは容易に想像できる。しかし、与党は今回も77年に提示した「二つ以上の症候」という判断基準は変更しなかった。
特措法には3年以内に救済措置を講じ、終了時点で水俣湾沿岸地域や阿賀野川下流地域の公健法地域指定を解除することが盛り込まれている。
そこで、第二の問題が出てくる。熊本・鹿児島両県で1月末時点で、公健法認定申請者は6200人に達している。3年で公正な認定審査作業ができるのか。現在提訴されている3件の損害賠償訴訟はそれまでに終わる保証はない。
加えて、最終解決の柱である、公的診断でメチル水銀の影響がみられると判断された被害者への救済が一時金150万円、療養費・療養手当月1万円で十分なのかも争点だ。ちなみに、95年の政治解決時には一時金260万円、医療費、療養手当月約2万円だった。
第三は、一時金を負担する原因企業への支援策としての、チッソの分社化容認である。いまのチッソを補償のための会社とし、収益を上げる事業会社を分社化する構想はチッソが求めていた。
与党は救済を確実にするため、子会社の株式売却は救済の終了まで凍結するなどの条件は付けた上で、認めた。救済のための基金も設ける。しかし、裁判が長引いた時などに、責任の所在が不明確になりかねない。
水俣病を巡っては、いまだに被害の全容は明らかになっていない。関西訴訟以降の認定申請者急増は、隠れていた被害者がいたからだ。早期に救済枠組みを作ると同時に、被害の実態把握も急ぐべきだ。
毎日新聞 2009年3月8日 東京朝刊