ソマリア沖の海賊対策で、政府が着々と手を打っている。海上自衛隊の護衛艦二隻を海上警備行動として十四日に派遣することを決め、一方で与党のプロジェクトチームに対し随時自衛隊の派遣を可能にする新法「海賊対処法案」の骨子を示し、了承された。
派遣の実施計画概要によれば活動区域はソマリア沖のアデン湾で、護衛艦には計約四百人が乗る。各艦には哨戒ヘリコプターを二機ずつ搭載し、司法警察権を持つ海上保安官を四人ずつ配置して海賊の身柄拘束に備える。護衛の対象は、日本籍船、日本人、日本の荷物を積む外国船などの日本関連船とした。
海上警備行動では、この護衛対象や武器使用で制約が多い。特に武器使用は警察官職務執行法の規定が準用され、基本的に正当防衛、緊急避難に限定される。強力な武器を持つ海賊に対処できるのか、という声を背景に、新法制定となった。
骨子によれば、警告射撃をしても接近してくる海賊船に対しては船体射撃を認めた。ただし正当防衛、緊急避難を基本に据え、現場から既に逃走した海賊の追跡は認めないという。
海賊被害の抑止に主眼を置く「抑制的な内容」と与党幹部はいう。だが、武器使用基準の緩和には違いない。実際には武器使用が現場指揮官の判断にゆだねられる場合も考えられる。
海外での自衛隊の武器使用については以前から拡大を求める声が根強い。イラク派遣でも他国の兵士を守るために使用が許されるのかといった議論があった。今回は海賊対処の法とはいえ、自衛隊の海外活動全般に武器使用を広く認めるきっかけにならないか、懸念される。
専守防衛を旨とする自衛隊の海外活動は極力抑制的であるべきで、武器使用の線引きが問題になるような状況では自衛隊を出さないというのが基本的にとるべき姿勢ではないか。
新法案は十三日にも閣議決定され、国会に提出される見通しだ。少なくとも武器使用のなし崩し的拡大を制限する措置を講じる必要があろう。
海賊対策では、政府が海上自衛隊と中国海軍で情報交換を軸に連携して対処する方針を固めたことが報じられた。作戦活動での協力を通じて日中間の信頼関係を醸成するのも狙いとされるが、自衛隊の海外活動拡大の方向に沿った動きでもある。政府は、国際貢献活動の強化を名目にした前のめりの姿勢を懸念する声が、国内にあることに留意すべきだろう。
昨年一年間の全国の自殺者数が三万人を超える見通しであることが分かった。警視庁と道府県警の調査を共同通信が集計した結果である。警察庁の自殺者数統計は十一年連続で三万人を上回ることが確実となった。
集計によると、昨年の自殺者数は約三万二千人で、警察庁の最終発表ではさらに若干増加して、約三万三千人だった前年と同程度になるとみられる。
世界的な金融危機による不況の影響はまだ読み取れないが、自殺と景気は密接に関係している。今後の増加が心配である。自殺者が初めて三万人を超えた一九九八年は、金融危機で銀行や証券会社が次々と破綻(はたん)した翌年に当たり、中高年男性の自殺が多かった。
世界同時不況に見舞われた現在も九八年ごろとの類似が指摘されている。警察庁は早めの対策が打てるよう今年から月別データの公表を始めた。一月の全国の自殺者は二千六百四十五人だった。これまで月別をまとめていないため前年同期の数字と比較できないが、厚生労働省の人口動態統計では昨年一月は二千三百五人で三百四十人増加している。
政府が〇七年に決定した「自殺総合対策大綱」は、専門家への相談やうつ病の治療など社会的支援の手を差し伸べることで防止が可能としている。
秋田県は九五年から長年にわたり自殺率(十万人当たり自殺者数)が全国最悪だったが、県を挙げて対策に取り組むことで減らすことに成功している。特別の策があったのではない。悩みを受け止める「いのちの電話」や倒産企業の相談に乗るなどの地道な活動と継続的な啓発の成果という。
悩みを抱えた人たちが地域で孤立せずに暮らせるよう多様な相談体制の充実が急がれる
(2009年3月7日掲載)