西松建設をめぐる裏金問題は小沢一郎民主党代表の資金管理団体を舞台にした政治資金規正法違反事件に発展した。解散・総選挙が行われれば民主党が勝利し、小沢氏が首相に選ばれる公算が大きくなっていた。その時期に東京地検特捜部は小沢氏の公設秘書の逮捕に踏み切ったわけで、今後の政局に与える影響も含め、各紙社説は、この問題を集中的に論じた。
公設秘書が逮捕された翌日の4日に読売は「小沢氏は、西松建設との関係や資金管理団体の収支などについて進んで明らかにする必要がある」、朝日は「トンネル献金の事実は本当になかったのか。小沢氏自身のかかわりはどうだったのか」と、小沢氏の説明責任を強調した。
説明を求める論調は各紙とも共通している。ただし、さらに踏み込んで小沢氏の責任についても言及したのが毎日と産経だった。
「小沢氏は『古い自民党政治』と決別するため、自民党を離党し、政権交代を目指してきたはずだ」と指摘する毎日は、自民党政治の象徴といえるゼネコンとの不透明な関係が今回明るみに出た点を重視する。そして、小沢氏も古い体質から逃れられないとのイメージが広がる点を挙げ、「小沢氏の政治的な責任が大きいのはそこだ」と述べている。
産経の場合は「小沢氏自身の政治責任はきわめて重いと言わざるを得ない。自ら出処進退を明らかにすべきだろう」と述べたうえ、「政権を担当できるのか」という小見出しまで立てて論じている。
そして、麻生太郎首相に対し「指導力を発揮する絶好の好機ととらえるべきだ」としてエールを送っている。
一方、毎日は小沢氏の責任に言及しつつも、政治献金が「小沢氏側以外にも、自民党や民主党の有力議員らの側にも提供されていた。同様に違法献金だった疑いもある。特捜部にはこれらについても徹底した捜査を求めたい」と述べている。
この点については日経も「東京地検には、捜査権力を公平に行使する観点からも、厳正な姿勢でそれぞれの献金先を調べることが求められる」と述べ、朝日、読売も同様の指摘をしている。
9月までには必ず解散・総選挙があり、民主党への政権交代の可能性が高まっている。そうした時期に小沢氏の公設秘書が逮捕された。その背景に何があるのかが、世の中の関心を集めている。
産経は3日後の7日の社説で、献金を受けた自民党議員らが相次いで資金を返還していることを取り上げ、「資金の返還で一件落着とはならない。違法性の有無を含め、捜査当局には厳正な捜査を求めたい」と言及した。
「国策捜査」との指摘もある中、各紙が社説で、他の政治家にまつわる疑惑の解明を求めたのは当然のことだろう。
一方、小沢氏本人は4日に会見を行い、容疑を否定し、検察の捜査に反論した。翌5日の社説で、毎日は「仮に捜査過程で小沢氏の主張が覆れば、同氏のみならず党が被る打撃ははかりしれないものとなろう」と指摘し、朝日も「今後の捜査で説明と矛盾する事実が明らかになれば、小沢氏の政治生命にも跳ね返ってきかねない」と、否定会見の持つ意味を強調した。
小沢氏が否定会見を行った同じ日に今年度第2次補正予算の関連法案が成立した。定額給付金については、もっと景気浮揚効果のある分野に支出すべきだったという指摘が、法案成立についての社説の中でも繰り返された。
今後の政治の課題については、
読売が「与野党の政局優先の思惑から、国会審議が混迷し、経済危機をより深刻化させることがあってはなるまい」と述べ、産経も「今後は、来年度予算関連法案を早期に成立させ、追加の補正予算を含む新たな経済対策も考慮すべきだ」と強調した。
これに対し朝日は「福田内閣以来、衆院での再議決は今回で7度目だ。それが妥当なのかどうか、早く総選挙の投票を通じて意思表示したいと思う有権者は多かろう」と述べる。毎日は「一刻も早く衆院を解散し、与野党が新たな経済対策を提示して、どちらが効果があるか競い合う総選挙を早期に実施すべきだ」と訴えた。
小沢氏の公設秘書の逮捕は民主党にとって打撃だろうが、自民党議員側に対する捜査や、「自民党は立件できない」という政府高官の発言が波紋を引き起こしていることなど、自民党側に不利に働きかねない要素もはらんでいる。
総選挙を行い政権が国民から信任を得ることを優先するのか、当面の経済対策に専念すべきかで、論調は分かれたままだ。しかし、経済の危機が進行する中で、麻生、小沢の両氏がともに国民の信頼を失ったままでは、国民の閉塞(へいそく)感は募るばかりだ。経済再生のスピードを上げるには、国民の信任を得た政権の登場が不可欠ではないだろうか。【論説委員・児玉平生】
毎日新聞 2009年3月8日 東京朝刊
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