【ワシントン草野和彦】クリントン米国務長官はラブロフ・ロシア外相との6日の会談を米露関係の「新たなスタート」と位置付け、ブッシュ前米政権時代に冷え込んだ関係の修復に意気込みを示した。関係改善重視の柔軟路線には米国内の対露強硬派だけでなく、ロシアの「覇権主義」におびえる旧ソ連圏の国からも懸念の声が上がっておりオバマ米政権は微妙なかじ取りが求められることになる。
会談に先立ち、クリントン長官は米露関係を仕切り直す意味を込めた「リセットボタン」をラブロフ外相にプレゼント。だが、外相から、ボタンに記された「ペレグルースカ」とのロシア語が「再生」ではなく「過重な負担」を意味すると指摘される一幕も。両国関係の行方を暗示するかのようだった。
クリントン長官が関係改善の象徴とするのが、第1次戦略兵器削減条約(START1)に代わる新条約の「年内合意」だ。だが、同条約が年内に期限切れを迎えることもあり、合意は「既定路線」とも言える。
米紙ニューヨーク・タイムズはオバマ政権高官の話として「会談の最大の目的はイランの脅威削減に向け、ロシアに努力を求めることだった」と伝えた。
ロシアが反対する東欧でのミサイル防衛(MD)計画に関し、オバマ大統領は3日、「イランの核の脅威が減れば、MDの必要性も減るとロシア側に伝えた」と説明。これを受け、米共和党の連邦議員36人が連名で「ロシアとの過度の協調を警告する」との書簡を大統領に提出した。MD見直しへの言及はロシアへの譲歩と見られかねず、「将来の米露交渉で米国の立場を弱める」というものだ。
対露強硬派の代表格はマケイン上院議員。昨夏のグルジア紛争前から、「プーチン露政権(当時)は民主化に逆行している」として、ロシアの主要国首脳会議(G8)からの排除を主張。強硬派の存在は、オバマ大統領の「超党派外交」の壁になる可能性もある。
また、5日に合意された北大西洋条約機構(NATO)とロシアの関係正常化にも、旧ソ連のリトアニアが一時、反対を表明。クリントン長官は外相会談前に「ロシアとの関係改善は、(旧ソ連の)グルジアやバルト諸国などへの支持を損なうものではない」と警戒感の払しょくに努めた。
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■米露(旧ソ連)軍縮関連年表■
72・ 5 米ソ、第1次戦略兵器制限条約(SALT1)調印
79・ 6 SALT2調印
87・12 中距離核戦力(INF)廃棄条約調印
91・ 7 第1次戦略兵器削減条約(START1)調印
93・ 1 START2調印(発効せず)
01・ 9 米同時多発テロ
12 米、弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退をロシアに通告
02・ 5 戦略核弾頭を1700~2200発に削減する「モスクワ条約」(戦略攻撃兵器削減条約)に調印
03・ 3 イラク戦争開戦
05・ 5 核拡散防止条約(NPT)再検討会議が決裂
07・ 1 米がミサイル防衛(MD)計画配備についてチェコ、ポーランドと協議開始
10 ロシアが米MD計画に反発しINF廃棄条約脱退を示唆
08・ 8 グルジア紛争を巡り米露対立激化
09・ 1 核軍縮に積極的なオバマ米政権誕生
2 バイデン米副大統領が米露対立を「リセットする時だ」と明言
3 米露外相会談
毎日新聞 2009年3月7日 東京夕刊