庵野秀明 インタビュー(第3回) メッセージトップ>>
●絶望から始まるヒーロー
― 庵野さんの中では、石ノ森先生はやはりヒーローもののイメージが強いんでしょうか。

庵野:そうですね。石ノ森先生の作品を全部読んでいるわけじゃないですけど、どうしてもそのへんに偏っています。「佐武と市(捕物控)」も好きですね。あれは、たしか先生が20代の時に描かれたと思うんですけど、あれだけのマンガを20代で描くというのはどういう人なんだと驚きます。「千の目先生」とか「009ノ1」もいいですね。女の人のキャラもとてもいいです。あと、「マンガ家入門」は小学6年くらいの頃に読みました。

― みなさん、必ず通る道ですね。

庵野:ええ。うちの嫁さん(安野モヨコ)も持っていました。隠れたベストセラーですね。

― やはり「マンガ家入門」を読んでマンガ家になろうと思いましたか?

庵野:マンガを描きたいとは思いましたが、マンガ家になろうとは思いませんでしたよ。そんなに絵が上手くなかったですからね。

― 石ノ森作品に感じる魅力とは、どういう点でしょう。

庵野:石ノ森先生の作品は、人間に対して距離感がありますね。絵も描写も、人間というものに対してものすごくドライです。一定の距離感を保っていて、熱く語る部分がほとんどないんです。そこが僕の石ノ森先生の好きなところです。冷たいものまでも感じさせますね。女の人のキャラクターにはわかりやすい一つのパターンがあって、全部のキャラクターの中身が一緒にも思えるんですが、そういう石ノ森先生の個人的な思いと、人間というものに対する醒めた目みたいなものが混然となっていて、そこがまた魅力です。

― 悪の組織にしても、人間がいる限り滅びない、人間の根幹に悪がいるという描写ですよね。

庵野:性悪説をとっていながら性悪説になり切れていないところもまた、先生の葛藤があっていいですね。性悪説が支配する組織から、必ずそうじゃない裏切り者が出て戦うんですけど、その裏切り者には基本的に仲間がいない。009にはほかの00ナンバーがいるし、ライダーも途中から仲間ができましたけど、基本的には孤独です。仲間で閉じてしまう関係性ですね。彼らは仲間を増やせないですから。

― それをやったら彼らを生んだ組織と一緒になってしまいますからね。

庵野:被害者が集まって仲間になるしかないんです。「(仮面ライダー)V3」では、風見志郎を改造して仲間を増やしちゃいましたけどね(笑)。瀕死の重傷をいいことに。

― ヒーローものというジャンルにおいて、例えば庵野さんは「ウルトラマン」の影響を大きく受けているとうかがっていますが、石ノ森ヒーローの位置づけを、庵野さんとしてはどうとらえていらっしゃいますか。

庵野:石ノ森先生の最大の功績は、やはり等身大ヒーローの変身ものというジャンルを確立したところだと思います。ご自身がものすごい数のヒーローを作りましたからね。「仮面ライダー」は、等身大アクションという世界を作ったエポック的作品です。もうひとつは、暗い世界観だと思います。「ウルトラセブン」とか「帰ってきたウルトラマン」も暗いと言われますけど、石ノ森先生の世界の比じゃないですよ。世界征服という目的を持った組織と、その組織を抜け出した裏切り者個人との戦いの話ですから、現実的に考えれば、勝ちようがないんです。事実、マンガの「仮面ライダー」だと勝っていないんですよ。そこがちょっとリアルで良かったですね。最後の「仮面の世界(マスカーワールド)編」では、結局、日本政府とショッカーが限りなく同義なものとされていて、そこに個人が単身乗り込んでも、差し違えることしかできない。「009」も最後の敵は神様ですから、そりゃあ逆らうのは難しいでしょう(笑)。「絶対に勝てない」と、セリフの中でも言っています。結局、レジスタンス、抵抗でしかないというのは、石ノ森先生のヒーローもののすごい好きなところですね。「イナズマン」も最後は仲間との殴り込みで、組織対組織になっているから倒せるけど、個人が勝てる話は本当に少ないですね。「キカイダー」くらいかな。「キカイダー」も途中で兄弟が増えるけど、最後はジローがひとりでやってしまう。僕の印象だと、そのくらいしかないですね。

― 確かに、石ノ森作品には、ほかのマンガでは味わえない暗さがありますね。

庵野:絶望からスタートしている感じがいいですね。「ロボット刑事」のいいところは、Kが絶望した後、ロボットとして生きる自覚を持つという点ですね。「キカイダー」の次の答えがそこにあるわけです。Kは電子頭脳ではなく、培養された母親の脳が生体コンピュータとして入っていて、だから人間に近い思考ができる。ちょっと考えると不気味なんですけど、そういう部分があるのが「ロボット刑事」の好きなところです。そして最後に、人間をやめる、人間を目指さないという決意をするのがいい。Kが自分で答えを出したら、話が終わるしかないんですが、まさかあの見開きで終わるとは思いませんでした(笑)。「少年マガジン」で連載していた時に、次の号を見たら載っていなくて、「あれ? まさか先週ので終わり?」って(笑)。で、単行本になって、貸本屋で借りて読んだんですけど、その時も同じ見開きで終わっていて、「やっぱりこれで終わりなんだ……」(笑)。でも、連載の時にはよくわからないところもありましたけど、まとめて読んだらすごく面白かったですね。
(注:「ロボット刑事」のラストは、マザーとバドーがともに爆発して、Kが「マザー!」と叫ぶという見開きで終わっている)

― 今ご自宅には、石ノ森先生のマンガはけっこうあるんですか?

庵野:「ロボット刑事」って、豪先生の「マジンガー」と同じくらい、何冊もあるんです(笑)。「マジンガー」も、いったい何度買い直してるんだろうというくらい、出るたびに買っているんですが、「ロボット刑事」も、分厚い中公のやつとか、大都社のやつとか、文庫のやつとか、みんな買っていますよ。会社にずっといたので、今すぐ読みたいという時に、前のを探せばいいのに面倒くさくて新しいのを買っていましたからね。今は自分の部屋に置いていますが、いっぱいあるからどこにでも置けるんです。会社でも、どこでも読めていいですね(笑)。

― 作品を作っていて、庵野さんの中に息づいている石ノ森テイストというものを感じることはありますか。

庵野:ここに感じるというレベルではなくて、しみこんでいるものだという気がするんです。それは、豪先生や松本零士先生と一緒で、自分が子どもの頃に熱中して読んでいたマンガというのは、自分の中に入り込んでいると思います。今でもそのままですね。そこに、自分の新しい経験や知識が上乗せされてきてはいますけど、小学校の頃に作られてしまったものからは逃れられないんだなと思います。一種呪縛でもありますね。

― 石ノ森先生とお会いしたことはありましたか。

庵野:僕も先生のいらっしゃった桜台に住んでいたので、3回くらいお見かけしたことがあります。それくらいで、お話ししたことはありません。散歩していたら石森プロを偶然見つけたりとか、桜台の駅の南側に先生の行きつけの喫茶店があって、そこに僕も行っていたというのが、15年くらい前ですかね。……マンガはすごい好きですけど、ぜひとも石ノ森先生にお会いしてという気概みたいなものは自分にはなかったですね。見かけて、なんかうれしい、というくらいで。

― 最後に、石ノ森章太郎萬画大全集の読者に向けて、お薦めのお言葉がありましたらお願いします。

庵野:石ノ森先生のマンガは子どもの頃からずっと読んでいまして、ものすごく僕の中で影響を受けた先生の中の重要なおひとりでもあります。亡くなられたのは本当に残念でしたけど、こうして先生の作品が全部、3年かけて揃うというのは、文化事業としても本当にに素晴らしいことだと思います。どれがお薦めといっても、基本的には全部お薦めなんですが、この中で読んだ人が必ず「これはすごい」と思うものがあると思います。それを見つけて、自分の宝にするのも良し。今まで読んだものを本棚にこれだけ並べるのも壮観だと思います。ひとりの「萬画家」の方が、一生かけて描いた作品が全部揃う、それを自宅の本棚に全部並べるというのは、人ひとりの人生を感じることができるようなイメージが僕にはあります。本当にすごいことだと思います。ぜひ購読してください。僕も読みます。

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