庵野秀明 インタビュー(第1回) メッセージトップ>>
●大人の雰囲気だった「仮面ライダー」
― 今回は、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」や実写版「キューティーハニー」などの監督である庵野秀明さんにお話をおうかがいします。庵野さんは「仮面ライダー」が大変お好きだそうですが、ご自身の体験としてはマンガ作品とテレビ、どちらの「仮面ライダー」が先だったんでしょうか。

庵野:テレビが先だったと思います。マンガは、「ぼくらマガジン」から「少年マガジン」に掲載誌が移ってからですね。あとは単行本になって読み返した感じです。石ノ森先生の原作だと「仮面ライダー」って、“マスカーワールド”ですよね。仮面の世界。素顔を隠した人たちの物語ですね。で、「仮面ライダー」のいいところは、仮面ライダーの仮面が本当の顔になっている点です。仮面をとった時の本郷猛というのが、逆に偽りの姿、仮面であるという。人間に化けている感じがして、面白かったですね。

― テレビでは、途中からどんどん“変身”を強調していきますね。そして「仮面ライダー」を皮切りに、やはり石ノ森先生の「変身忍者嵐」「人造人間キカイダー」などが映像化されて、変身ヒーローブームとなっていくわけですが。

庵野:マンガのほうでも、仮面ものと言えるのは「仮面ライダー」くらいで、あとはみんな変身ものですよね。「変身忍者嵐」は“化身”、「キカイダー」は“チェンジ”で、「イナズマン」はサナギから蝶へという“メタモルフォーゼ”のイメージで差別化しています。同じ変身ものでも、細かいところでは1作1作、作品世界に合わせて変えて作っている。この頃の石ノ森先生のヒーローの作り方というのは、本当にすごいと思います。

― 「仮面ライダー」以前には、「月光仮面」とか、石ノ森先生がマンガ化した「快傑ハリマオ」などのヒーローものがありましたが、それらはいわゆる“覆面もの”でした。それまでのヒーローと「仮面ライダー」との違いとは、どういうところだったのでしょうか。

庵野:革新的だったのは、改造人間という設定を持ってきたところでしょうね。「スカルマン」と「サイボーグ009」(の設定)を融合して、人間を超える能力を持つ仮面ものにしています。それに、主人公がバッタという点も新しいですよね。悪役顔が良かったです。敵であるショッカーの怪人も、ほかの生き物と人間の融合になっていて、キャラクターとしても特徴が際立っていました。あと、石ノ森先生の作品の特徴としては、敵も味方もみな兄弟ですよね。009も仮面ライダーも、基本的には悪の技術で誕生しています。「キカイダー」にしても、光明寺博士が悪も正義も両方作っています。最後に出てくるアンチヒーローが、弟分のハカイダー=サブローですからね。兄弟が争うというパターンが石ノ森先生の作品には非常に多いですね。そのへんが永井豪先生と全然違うところです。永井豪先生の作品では、兄弟はみんな仲がいいですから。

― 確かにそうですね。

庵野:永井豪先生の作品だと、敵と味方が完璧にどこかでわかれているというのが多いですね。力のある物質や他者に主人公の魂を入れるというのが豪先生のパターンだと思うんですけど、石ノ森先生の場合は、最初から主人公の体ごと別のものにされているというパターンですね。石ノ森先生の描く主人公は、そうした哀しみを背負っていると感じます。よく言われることですが、石ノ森先生のヒーローがみんなたれ目で泣いたような顔をしているのは、そういう哀しみを内包しているからじゃないかと思います。そこが絵になっているんです。ほかのヒーローはたいがいつり目なんですよ。たれ目は石ノ森ヒーローの特徴ですね。

― キカイダーも、善と悪にわかれて左右非対称になっているというデザインが秀逸ですね。

庵野:石ノ森先生は非常にわかりやすいヒーローの作り方をしますね。ものすごく単純にできていて、そこが良かったと思うんです。「キカイダー」にしても、「機械・ダー」ですからね。実にストレートです。しかも、「機械」と「奇怪」をかけているというのがまた上手いわけです。子どもを含めて誰にでもわかりやすく、かつ多層的に意味が込められている。この単純化は誰にでも真似できるものではないと思います。「仮面ライダー」も「仮面・ライダー」ですからね(笑)。仮面を被ったバイク乗りですよ。「イナズマン」も「稲妻」に「マン」をかけただけ。このシンプルさが素晴らしいです。ヒーローもので、最初にキャラクター性などが開花したのがたぶん「009」だと思います。「009」に基本となるものが全部入っていて、そこから枝分かれしてこれだけのものを作ったというのがすごいですね。ビジュアルも含めて。「仮面ライダー」の基本設定は「009」と一緒ですからね。拉致されて、知らないうちに勝手に改造されて、組織を抜け出した裏切り者として追われて。孤軍奮闘ですよね。最初からの理解者以外、味方がなかなか現れない。

― 庵野さんのお気に入りの石ノ森作品というと、やはり「仮面ライダー」ですか?

庵野:マンガでいうなら、僕は「ロボット刑事」がいちばんですね。雰囲気がすごくいいんです。絵の雰囲気がなんともいえずいい。石ノ森先生の70年代の作品は、絵も、コマ割やコマの運びも含めて、本当にすごいです。また、ここぞという時の見開きの使い方とかセンスがすごいですね。画のスケール感や俯瞰やオフショットなど、アングルも実に映画的です。映画そのものというよりも、マンガ技法による映画的な作品として成立していますね。書き込みタッチも尋常じゃないです。「スカルマン」も本当にすごい。あの頃の石ノ森先生のパワーには圧倒されます。「仮面ライダー」「ロボット刑事」「キカイダー」「イナズマン」は、ものすごく好きな作品です。このへんの作品は、見開きが本当にいいんですよ。キャラクターが小さくて、バッと画面全体で世界を見せることに気を遣っている。その中に改造人間やロボットなどといった奇妙な人たちがポツンといる画面構成がとてもうまいですね。「ロボット刑事」は特にいいですね。すごいと思います。

― 人知れず異形の者同士が戦っているという世界ですね。

庵野:70年代だから描けたんでしょうね。今はもう、その世界観は許してもらえないと思います。人知れずというのはなかなかありえないし、実際には描けるんですけど、そこにお客さんがリアリティを持てない。ああいう世界は難しいですね。

― 「仮面ライダー」というと、アイテムとして変身ベルトがあって、それが商品としても売れましたね。

庵野:テレビのほうはベルト一押しみたいなところがありましたね。でも、ベルトの風車に風が当たって変身するわけじゃなくて、胸のコンバーターラングで風を受けてエネルギーに変換するという設定で、風車は風力計ですから、設定的にはマンガとテレビで違うと思うんです。僕も子どもの頃はやっぱりベルトが欲しかったんですが、おもちゃは高くて買えなかったので自分で作ったりしていました。ベースはボール紙ですが、モーターをしこんで。ギアもなくてモーターの先に風車をつけているだけですから、作り自体は簡単でしたけどね。

― 庵野さんと石ノ森作品の出会いは、どの作品からだったのでしょうか。

庵野:最初に名前を覚えたのは「009」ですね。連載中から読んでいました。少年誌に載っていたのはたいがい読んだと思います。「COM」などに掲載されたもの(注:「神々との闘い編」)は、高校に入って、高校のそばの貸本屋で出会ってからでした。朝日ソノラマの「マンガ少年」(注:「海底ピラミッド編」)は、リアルタイムで買って読んでいました。

― テレビとマンガの同時展開というのは、現在では当たり前になっていますが、当時読んでいてどう感じましたか。

庵野:「仮面ライダー」は最初からメディアミックスでしたね。(マンガの映像化ではなく)最初に番組ありきという企画でしたから。石ノ森先生がどこかで書いているのを読んだんですけど、子ども向けのテレビである以上、ある程度、言ってみれば幼稚な部分が残るのは仕方がない。マンガのほうは、そういうところをできるだけカバーする方向で描かれている、と。これは豪先生も同じことを言われていました。「仮面ライダー」も、テレビのほうはどんどん“サブロク”(3歳〜6歳児向け)の方向に移行してしまって、初期のテイストとは変わってしまいました。僕は当時小学校5年生でしたから、最初の頃の雰囲気が好きでしたね。第1話も好きだったんですが、2話とか、当時のうちのテレビじゃ何が映っているのかわからなかったですね(笑)。

― 夜のシーンばかりで暗いですから、当時のテレビの解像度だときついですよね。

庵野:2話に出てくる団地は、あおった時は生田(撮影所)の近所のマンションらしいですが、屋上にカメラが入った時にはセットになっているんです。団地の外観が映ると手すりがあるんですけど、中に入ると手すりが消えてしまうんです(笑)。そういうのも全然気がつかないくらい、画面が暗くても勢いがあって良かったですね。あらためてDVDで見ると、安いセットなんですね。背景はただの黒幕で(笑)。戦闘員もライダーもみんな黒い服なので、なんか黒い人たちがマンションの屋上でうごめいているという感じでした。けど、そこで重いアクションとか、立花さんが叫ぶシチュエーションとか、目だけが光っているライダーのかっこ良さとか、屋上から戦闘員が落とされて血がバシャっと広がるシビアな描写とかが入ったりするわけです。そういうのがすごく良かったんですね、大人の雰囲気に満ちている感じがして。当時小学5年から見たら、かなり大人向けの番組が始まった印象があったんですよ。2号以降、明るい番組になってしまって、さすがに中学校に入る頃にはあまりハマらなくなってしまいました。ショッカーライダーのあたりはかなり好きだったんですけどね、ニセモノ好きなので(笑)。ニセウルトラマンやにせウルトラセブンなど、ヒーローと同じ姿形をした敵が出てくるというのはすごく憧れますね。鏡の存在です。ウルトラマンを神とするなら、神と同じ力を持った悪魔も、同じ姿をしているというのが好きなんです。マンガの「仮面ライダー」にも、「13人の仮面ライダー編」がありましたが、まさか本郷猛があそこで死ぬとは思いませんでしたので、とても驚かされました。「ヒーローは死なないもの」と漠然と思っていたので、見開きで周りをバイクで取り囲まれているシーンが印象的で、「ほんとに死んだの?」とびっくりしましたね。あれはいいエピソードですね。もし「仮面ライダー」(の映像化)をやらせてもらえるなら、「13人の仮面ライダー編」ですね。マンガのテイストを拾って映像に移し替えて、原作のままでいいと思います。

― それはアニメでですか?

庵野:いや、実写ですね。「仮面ライダー」は実写だと思います。アニメでは考えたことがないですね。「ライダー」って、もともとアニメ映像向きじゃないんですよ。かなり手間かければ別ですが。デザイン的にはマンガのライダーが好きになったのはわりと最近で、それまでは僕はテレビ版の旧1号の造型のほうが好きでしたし、実写のほうのイメージがやはり強いですね。マンガの「仮面ライダー」では、こうもり男に落とされた時の、目がかーっと光ってベルトが回っている、異様に手足が長い絵が良かったですね。石ノ森先生のキャラクターの魅力は、僕はシルエットにあると思うんです。寸胴で手足が長かったり、猫背だったり。首のついている位置がちょっと変だったり、そこがまたいいんです。的確なデッサンではなくて歪みがあっても、魅力のある絵ですね。

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