永野護 インタビュー(第1回) メッセージトップ>>
●「ファイブスター物語」の前に「マンガ家入門」あり
― 今回は、人気マンガ「ファイブスター物語」の作者として、またアニメのキャラクター&メカニックデザイナーとしてご活躍中の永野護さんにお話をうかがいたいと思います。まずは、最初のご記憶からお聞きしたいのですが、子どもの頃に接した石ノ森章太郎先生の作品は何だったのでしょう。

永野:幼稚園の頃の記憶から始まりますが、たぶん僕が最初に石森章太郎さんを知ったのは、「レインボー戦隊ロビン」(1966年放映)です。あれを石森作品とするなら、最初の記憶に残っている石森さんの作品ですね。

― それはアニメ作品のほうですね。

永野:「レインボー戦隊」が、石森さんだけじゃなくて藤子さんたちトキワ荘出身の方々がみんなで寄ってたかって作った作品だというのは、後に僕がアニメ界に入ってから知ったんですけど。その後は普通に「サイボーグ009」(68年放映)じゃないでしょうか。「ドンキッコ」(67年放映)も知っていますね。いちばん覚えているのは、僕が幼稚園の頃ですから、1965年から68年ぐらいの作品ですね。それ以降の「仮面ライダー」とかはよく知らないんです。

― 「マンガ家入門」(65年)をお読みになったそうですが、いつ頃のことでしょうか。

永野:もともと僕は音楽家を目指して東京にやってきたんですが、紆余曲折ありましてこんなことをやっています。その間にアニメ業界にいて、サンライズという会社でずっとアニメを作っていたんですよ。20年ぐらい前になりますが、(角川グループの)ザテレビジョンというすごく怪しげな会社がありまして(笑)、そこで角川歴彦という人たちが何か新しい雑誌(注:月刊「ニュータイプ」のこと)を作ろうと、他の人を引きずりこんでいたわけなんですけど、その時に、歴彦さんの「永野にマンガを描かせろ」という恐ろしい一言で、どうも僕はマンガを描かなきゃいけないことになったんです。僕は、マンガってどうやって描くの?というくらいで(笑)、ほとんど知らなかったんですよ、まじで。アニメだって、やっと1年かかって、ロボットというのはこう描くんだ、アニメというのはこう作るんだ、というのを全部教えてもらったところでしたから。というか、教えてもらうより先に実戦投入だったんですけど、マンガもそれと同じでした。マンガを描かなきゃいけないんだけど描き方がわかんねえと言っていたら、いま僕の女房をやっている、声優の川村万梨阿とその当時つきあっていたんですが、たまたま本人が「マンガ家入門」の初版本を持っていたんです。彼女の住んでいたところというのは、トキワ荘が近くにあって、横山光輝さんの実家が三軒先にあるという環境で、中学や高校の時に、学校で「マンガ家さんにインタビュー!」というような課題が出てそういうところへよく行かされたらしいんですよ。そういう関係でマンガというのをよく知っていて、彼女がまだ中学生の頃かな、お金がないから古本屋さんでこの本を買って、自分はマンガなんて描かないけど、物は捨てない女なんですよ。それで、こういう本を持ってるけど、参考に読む?と勧めてくれたんです。

― 川村万梨阿さんがたまたま持っていたというのも不思議な縁ですね。

永野:それで、ぱらぱらと見ていたら、すごくわかりやすいんですよ。ただ、僕はその時すでにアニメ界にいましたから、キャラクターとか話とかロボットとか背景とかの描き方はもちろんもうわかっていました。(参考にしたのは)マンガのまとめ方という部分ですね。有名な「龍神沼」というマンガがありますけど、この「龍神沼」を全部使って解説がしてあって、一本の作品が、導入から始まって盛り上がって最後に終わるという、すごくオーソドックスな起承転結の話を、どうやって見せていくかということが、この「マンガ家入門」にはすごく簡単に書いてあるんですよ。まあ、石森さんというのはたぶん天才だから、解説というのは全部自分が後からつけたものだと思うんだけど。難しいことを簡単に書けるというのは、知能指数が高くないとできないので、ああ、この人は賢い人なんだなあと思いました。僕が25歳ぐらいの時に描いた「ファイブスター」は、たぶん全部その手法にのっとって描きました。ラストシーンはとにかく大ゴマで、読者に余韻を与えなきゃいけないと書いてあるので、「ファイブスター」の1巻2巻3巻とか、みんなエンディングは大ゴマを使って、いままでごちゃごちゃとすごい小さいコマ割で描いていたのに、最後のドラマがどーんと終わった後、すっと引く時に、わざわざすごい大ゴマを使って淡々と終わっていくという描き方がしてあります。それはもうこの本からの影響です。「ファイブスター」というのは、とりあえず自分で考えるより、ここに書いてあることにしたがって頭ごなし的なやり方で作ったんです。そういう意味ではマニュアルというよりか、バイブルに近いですね。これはすごくいい本だと思いますし、僕が石森作品の中でいちばんお世話になったのは、間違いなくこの作品です(笑)。これはもう事実なので、隠しようがないことです。

― 「ファイブスター物語」にそんな誕生秘話があったとは知りませんでした。

永野:石森章太郎さんのマンガ自体から影響を受けたかというと、そうでもないんですけどね。ただ、後から知ったことですけど、この本は「サイボーグ009」が出るか出ないかという時期に書かれていた、つまり、石森さんが昇りはじめてエンジンがかかった瞬間に書かれた本だと思うんです。「サイボーグ」の人気が出ちゃって上昇気流!というところではなくて、その前で書かれたから、たぶん伝えたいことや言いたいことがいちばんある時代の本だと思うんですね、これは。

― 「マンガ家入門」を読んでマンガ家を目指されたというマンガ家の方はたくさんいらっしゃるんですが、永野さんの場合は、ちょっと珍しいパターンですね。

永野:たいへん珍しい。マンガ家になるよりも先に、すでに連載誌と締め切りが決まっていて、とりあえず描けと言われているという大前提って、ひどい話ですよね、これ(笑)。

― 「マンガ家入門」がすごいのは、当時の子ども向けに描かれているのに、かなり普遍的なものとして通用しているということですね。80年代に永野さんが参考にできたくらいですからね。

永野:いちばんいいのは、テクニックのことを一切書いていないんですよ。どのペンを使えとか、些末なことは全然書いていないんです。どうやって作るのか、そして最終段階までどう仕上げるのかということしか書いていない。自分が何を描きたくてどういう話を作るか、それがいちばん大事なんだということが書いてあります。僕は、そこにひかれたんですよ。だって、実際にマンガ家になればわかるんですけど、紙がどうこうとかキャラクターがどうこうとかロボットがどうこうなんてことはどうだっていいんです。面白い話を面白く見せるというのがいちばん大切なわけで。それに、メンタリティのことまで触れているんです。テクニックとかは全く関係なく、プロとしてどうするかというところまで見越して書いている。(マンガ家に)なりたい、だけではなくて、じゃあなったらどうする、ヒットを飛ばしたらどうする、スランプになったらどうする。そこまで、ぼんやりとですが書いてあるんですよね。

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