藤岡弘、インタビュー(第3回) メッセージトップ>>
●先生の原点を知ることができて嬉しかったですね
― 石ノ森章太郎先生とは、「仮面ライダー」に出演が決まった当初、そして撮影当時など何度かお会いする機会はあったかと思いますが、実際にお会いになった先生のイメージはいかがでしたか。

藤岡:僕は、作品を読んで先生に対して偉大さを感じていたので、とても怖い、巨大な存在のように思っていました。どうしよう、今日は巨匠に会う(笑)なんて緊張していたんですが、お会いしてみると、優しくて包容力があり、人を引きつけるさりげない思いやりと大きさを持った方で、びっくりしました。自分の中にプレッシャーや不安があったのが、一瞬のうちに消えてしまいました。出てくる言葉はとても優しい、愛を持った言葉で、ほんとに深い方だという感じがしましたね。東京へ出てきて、不安の中でいろんな大人たちと接触して、プレッシャーと威圧感に追われていた当時の私としては、また違った、大きい存在でした。優しさを体中に表していましたし、普通のスタッフと同じ立場にすっと下りて話をなさる、そういうさりげなさを持っていらっしゃって、とても巨匠というイメージではありませんでした。マンガで描かれているすさまじい映像や主人公の生き様と比べると、ギャップがありましたから(笑)、どこからこれだけのエネルギーが出るのかというところにとても興味を持ちました。マンガを見ると、シャープで、どの映像も休みなく動き続けていますよね。

― ドラマチックというか、ある種映画的ですよね。

藤岡:非常にドラマチックですし、出てくる登場人物がみんな生き生きとして、それぞれが強い個性を持っていて、力を感じさせます。でも、先生ご本人は、とても穏やかで優しい。だから、思いの凝縮されたエキスのようなものが内面で熟成していらっしゃったんでしょうね。そこまで僕は読めるほどの大人ではなくてわからなかったから、そのギャップには驚きましたが、とてもあたたかみを感じて嬉しかったですね。

― 演じるに当たって、石ノ森先生からアドバイスのようなものはあったんでしょうか。

藤岡:具体的に、こうしろああしろということはありませんでしたが、子ども番組だからこそ真剣に取り組んでほしいなというようなことを言われた記憶があります。

― 「仮面ライダー」の中で、1話、石ノ森先生が監督をなさった回がありますが、その時のことは覚えていらっしゃいますか?(注:第84話「危うしライダー!イソギンジャガーの地獄罠」)

藤岡:覚えていますよ。すごい優しい先生でね。スタッフと一緒になって、ひとつに染まっちゃうという感じでした。スタッフ全体が一体化してしまうような魅力をお持ちでしたね。場がなごむ状況ではあるんだけど、やらなければいけないという良い意味での緊張感もありました。

― 石ノ森先生は、マンガ家としてずっとご活躍なさっていましたが、映画が大変お好きで、できたらご自分で映画を撮りたかったそうです。マンガと表現は違うますが、同じクリエイターとして伝えたいものがおありだったんでしょうか。

藤岡:先生がお亡くなりになったあとですが、機会があってご家族の方とお話をさせていただいたことがあるんです。僕は黒沢明先生の映画が大好きで、何十回も観たものもあるんですという話をしたら、「いや、うちの石ノ森もそうですよ。黒沢監督が大好きで、会いに行ったこともあるんです」とうかがって、やっぱりそうだったのかと、自分との共通点を見つけて嬉しかったですね。(黒沢作品は)毎回見るたびに感じるものがあるんですよ。「七人の侍」を何十回見ても、自分の年齢とともに、必ずはっとする部分が出てくる。だから、いまだに見ていますね。僕の勝手な想像ですが、先生はきっと、マンガを描いていないとき、マンガを描きたくないときに、僕と同じように夜こっそりと映像を見ながら、いろいろと策を練っていたんだろうなと考えて、にんまりしました(笑)。僕が映画界に入って、映像に関わってきたのは、やはり自分が映像から受けた影響なんです。同じように先生も、映像の世界にいらっしゃったんだなということを感じて嬉しかったですね。

― たくさんの映画をご覧になってその影響から俳優になった藤岡さんと、やはりたくさんの映画に影響を受けてマンガをお描きになった石ノ森先生とが、「仮面ライダー」を通じて出会ったというのも、ひとつの縁ですね。黒沢監督や映画を作った先人の方々の魂がどこかに流れ込んでいるんでしょうね。

藤岡:人間には、原動力というものがあるじゃないですか。僕が動機や目的と言うのはそこなんですよ。僕の動機は、誰に何を言われようが変わらない。それが僕の生き様なんですが、石ノ森先生もたぶん同じなんじゃないかなと思うんです。実は、僕は石ノ森先生の足跡をたどったことがあるんですが、宮城県の石ノ森萬画館の隣に古い映画館がありまして、先生のお住まいだったところから萬画館があるところまで、先生は映画を観に自転車で通っていたそうです。先生の実家からそこまで、すごい距離があるんですが、映画を観たくてそんな距離もなんのそので、自転車をこいでいたんですね。その気持ちは、僕も同じなんですよ。僕も映画が観たくて、でもお金がないから、必死になってアルバイトをしていました。その映画館で僕は講演をしたんですが、昔のままの小さい映画館で、席も何十席ぐらいかな、椅子もちょっとお粗末で(笑)。でも、そこに石ノ森先生が来ていたんですよと聞いて、じーんとしました。

― 石ノ森先生と同じ風景をご覧になったわけですね。

藤岡:そのとき、石ノ森先生がそばにいるなと思いましたね。僕をここまで導いてくれたのかな、俺はここで映画を観て燃えたんだよと僕に言いたかったのかな、そんなことを考えてちょっと熱くなりながら、講演をしました。こうした偉大なものが生まれる原点がそんなところにあると考えると、ひとりの子どもも粗末にしちゃいかんなと思います。もしかしたら、そういうひとりの子どもが、世を救うような子になるかもしれないし、石ノ森先生のように歴史に残るものを生み出す人になるかもしれない。それに対して我々は責任を持たなければいけないと、「仮面ライダー」に携わり、いま現在に至って、身にしみて感じますね。……ヒーローものというのは、はっきり言うと、日本が世界の発信基地なんです。アニメをはじめとする日本のヒーローものがいま全世界に影響を与えていますが、これはつまり文化を輸出していることだと思います。その筆頭が石ノ森先生です。僕は、「藤岡弘、探検隊」でいろんな国に行きますけど、「こんなところでなんでサインをせがまれるの」とか「なんで握手を求められるの」(笑)ということが多いんです。なんだろうと思っていると、「ライダー、ライダー」と言うんです。おそるべき影響力を感じますよ。

― 最後に、石ノ森章太郎萬画大全集の読者の方々に向けて、藤岡さんからメッセージをお願いいたします。

藤岡:私は、石ノ森先生の「仮面ライダー」によって育てられたと言っても過言ではないほど、影響を受けさせていただきました。今こういう時代になって、あらためて先生の偉大さというものをひしひしと感じております。というのはやはり、先生が当時に思われていた、また危惧されていたこと、環境破壊や人間の問題、そしてまた、あらゆる公害問題などをひっくるめて、先生が危惧されていた。それがいま現実にこの時代に今も大きな課題を経て、我々人類がもがいているわけですが、そういうことを先生は看破されていた。それを特に最近、感じることが多いです。そういう中で、先生の偉大さを歴史とともに感じています。私も世界中を回る機会がありまして、世界中を見て体験していきますと、なおさら、先生の描いていたことが、その通りだなと感じております。まさしく人間の心の中に善と悪がいます。そのマイナスの負の部分、それが私は、先生の危惧されていたことだと思います。ショッカーというものは、人間自身の中にある負の部分であると私は思っております。先生の描いた「変身」は、人間自身の中に巣くっている悪なる心に自分で気づき、心の「変身」をすることではないか、先生はそれを願っていたのではないかと、昨今思う次第です。人間が傲慢にも他を省みない、思いやらない、いたわらないという、自己中心的な欲望のあるがままに繁栄してきたこの歴史に対して、偉大なる石ノ森先生は、警鐘を鳴らされていたような感を受け取ります。特に混沌の中から日本が経済的に発展し、その後、バブルの崩壊という大きな試練を経て、今現在、また混沌としたこの状況の中で、人々が心を病んでいる状況が、昨今巷をにぎわしております。まさしくショッカーは、我々の心の中にあり、いまだに仮面ライダーのような存在が重要であるということを認識せざるをえないような環境です。考えますと、石ノ森先生は、この世を去るのが早すぎたな、先生はもっともっと大きな思いを持っていらっしゃって、もっともっとやりたいことがおありだったんじゃないかなと、自分は感じております。自分も、先生と縁があって、出会いがあり、この出会いの中でこの世に存在していることを感謝する次第です。そして、そういうものを感じ取った自分としましては、今度は先生の身代わりとして、メッセージを世に送る責任と使命を感じる次第です。俳優という立場を通して、自分ができることの中で、次なる未来を背負っていく子どもたち、そして地球というものを背負っていく世界中の子どもたちに対して、自由と平和と幸せを贈り届ける責任があるのではないかと感じております。そういう中で、この「仮面ライダー」は、子どもたちの心に永遠に燃え続けるだろうと思っております。それが先生の思いと願いが燃え続けていることでもあると感じております。偉大な先生の作品が、今回全集として作られることに対して、僕は、ああ、これは日本が誇るべき、偉大なる素晴らしい歴史として残すべきものだと、とてもうれしく思っております。そういうことを感じ、今日も石ノ森先生のことを思い出しながら、お話しさせていただきました。この「仮面ライダー」が、子どもたちの光となり、未来への希望や夢となる作品として永遠に続いていくことを願ってやみません。ありがとうございました。

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