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わが子を抱きたい−検証・香川受精卵取り違え事故−

 香川県立中央病院で起きた受精卵の取り違え事故は、鳥取県内で不妊治療に取り組む夫婦や医療現場にも大きな衝撃をもたらした。「なぜ?」「医療現場の安全管理はどうなっているのか」−。新たな命の誕生を手伝う生殖医療への信頼が、「別の夫婦の受精卵を片付け忘れた」というあまりに単純な初歩的ミスによって崩れてしまった。医療事故を再び繰り返さないためにも、当事者の声に耳を傾け、医療現場が抱える課題を検証したい。

2009/03/06の紙面より
【上】 不妊治療の現状

身体、経済的に重い負担

 二月十九日夜、鳥取市内に住む由佳さん(40)=仮名=は、夫(48)と一緒に見ていたテレビニュースで体外受精卵の取り違え事故を知った。

 「えっ、そんなことがあるの?」「かわいそう過ぎる」。大きな驚きで、二人が同時に声を上げたという。

 由佳さん夫婦は八年前、長女を体外受精で妊娠、出産した。結婚後、六年間の不妊治療を経てやっと授かったわが子のいとおしさを知るだけに「(この夫婦も)妊娠を知ったときは、どんなにうれしかったかと思う。精神的にも肉体的にもつらい治療をがんばってきただろうに。小さくても大事な命。人工中絶を余儀なくされた悲しみはどれほどか」と言葉を失う。

■56人に1人■

 カップルの十組に一組が不妊といわれる現代社会。一方で、一九八三年に国内初の体外受精児が誕生して以来、生殖医療技術は日々進歩し、今や新生児の五十六人に一人が体外受精で生まれている。日本産科婦人科学会などによると、二〇〇六年の体外受精児数は約一万九千六百人。もはや珍しいことではなくなった。

 不妊治療の第一人者、ミオ・ファティリティ・クリニック(米子市)の見尾保幸院長は不妊の要因として、晩婚化や出産を望む女性の高齢化、性のモラル低下による性感染症の増加、男性の精子減少などを挙げ、「体外受精が必要な夫婦は増えている」と指摘する。

 体外受精は、女性の卵巣から卵子を体外に取り出して培養液の中で精子と受精させた後、受精卵を子宮に戻す。「卵子を取り出すときや受精卵を子宮に移植するときも入院したが、肉体的にもつらかった。痛い注射にも、これで赤ちゃんができると考えると耐えられた」と前述の由佳さんは振り返る。

■保険適用なし■

 しかも、不妊治療には経済的な負担も大きい。二〇〇四年度からは国の少子化対策の一環として、体外受精や顕微授精といった高度な技術を要する不妊治療費の一部公的助成が始まったが、一回の体外受精に必要な費用は約三十万円で、医療保険は適用されず全額個人負担となる。

 鳥取県でも同年九月から制度を導入し、申請者が増加。新年度からはさらに単県での上乗せ額を増やし、一回あたりの治療には十五万円(国五万円・県十万円)が年二回を限度に五年間助成される。

 しかし、不妊治療が一般的になったといっても「やはり人に言いづらい」と由佳さんは打ち明け、今回の医療事故で不妊治療に対する誤解や偏見が生まれるのではないかと懸念する。

 「人間のすることだから、百パーセント完全はないのかもしれない。でも、私たち患者は医師に全幅の信頼を置いて治療に専念している。肉体的な傷は癒えても、精神的なショックはなかなか癒えない。こんなことが許されていいのか」

 当事者たちは、医療機関の安全管理態勢を厳しく問う。

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