2008年09月04日

公共交通機関で行くぶらり水紀行vol.8

2008/9/5号ちいきしんぶん掲載


「摩耶(まや)の滝」落差約20m(中之条町)
ロマンあふれる恋愛成就の滝と外湯めぐり




 県内屈指の名湯、四万(しま)温泉。昔なつかしい温泉街を抜けて、訪ねる山奥にある豪快な滝「摩耶の滝」には、美しい姫が運命的な出会いをするラブロマン伝説が残っている。旅のしめくくりは、もちろん温泉三昧! 


■昔なつかしい温泉街を抜けて

 JR吾妻線「中之条」駅から、「四万温泉」行きのバスに乗り込む。さすが人気の名湯だけのことはあり、電車の到着に合わせてバスが運行している。待ち時間わずか7分で出発。ローカルバス路線にしては、1日の本数も多く、非常に便が良い。
 今から8年前、四万温泉で「探四万展(さがしまてん)」というイベントが開催された。縁があって僕にも声がかかり、作品(絵画とエッセイ)の出展と、シンポジュームでのパネリストとして参加させていただいた。その以前からだから、僕と四万温泉との付き合いは、とても長い。何十回と訪ねている温泉地だ。
 積雪のある冬場のみバスを利用したことがあるが、夏のこの時期にバスで訪ねるのは初めてである。車高が高い分、視界が広がり、深緑の迫り来る感じがいい。何よりも旧道を走り、昔ながらの集落を抜ける道のりは、否応なしに旅情をかきたててくれる。約40分のバス旅を楽しんだ。
 終点「四万温泉駅」で下車。古い温泉街を歩き出す。
 四万温泉は四万川の渓流沿いに連なる細長い温泉地で、5つの地区からなる。一番手前の「温泉口」、風情ある街並みが続く「山口」、老舗旅館が集まる中心地で、土産物屋や飲食店が集まる「新湯」、渓流と深緑につつまれる「ゆずりは」、そして最奥にある四万温泉発祥の地「日向見」と続く。今回訪ねる「摩耶の滝」は、日向見から登山道が始まる。

■山ビルとクマに用心しながら
 バスを降りた「新湯」から四万川沿いに「ゆずりは」地区を抜けると、四万で唯一車道から望める滝「小泉の滝」を見下ろす。小さいが、形の良い滝である。
 やがて、日向見に着いた。いで湯伝説が残る外湯「御夢想の湯」の向かいにある国の重要文化財「日向見薬師堂」に参拝して、いよいよ滝へと向かう。
 登山口には「山ビル(吸血ヒル)注意」の看板と、ご丁寧にも対策用の食塩水のスプレーが置かれていた。どうやらヒルは足元を狙うらしく、靴や靴下、ズボンのすそに散布するようにとの説明書きがされている。かつて四万の山へ入ってヒルにやられた経験はないが、せっかくの好意なので、万全を期してから出発した。
 前日の雨で、所々水が出て、ぬかるんでいるものの道幅もあり、快適な歩行が始まった。ただし、左側は日向見川の渓谷のため、路肩は注意が必要だ。
 時々、道の端にクマよけの鐘が吊ってある。こちらも念のために「カーン、カーン」と叩いて歩いた。ヒルよけのスプレーもクマよけの鐘も、地元四万温泉の人たちが、訪れる観光客のためにと設置したものだそうだ。
 小さな沢を渡ったり、多少足をとられる泥地はあるものの、難なく滝見台へ着いた。

■豪快な滝を眺めながら乾杯!
 眼前に、ゴーゴーと唸りをあげながら垂直に落ちる豪快な滝の姿が現れた。樋状の滝口から飛び出した水は、黒光りする岩盤めがけて叩きつけるように落ち、大きくバウンドしなから飛沫をあげている。恐る恐る柵から覗き込んで見るが、滝壺は見えない。
 「摩耶の滝」には、こんな伝説がある。摩耶姫という美しい娘が、ある日、お不動様の導きにより滝へ行ってみると、鹿を追って男が山から下りてきた。今までに見たこともない立派な青年で、二人は運命的な出会いをして幸せになったという。このことから最近は、
”恋愛成就の滝“として訪れるカップルが増えているとのことだ。
 あずま屋の向かいにも水量は少ないが、もう一本滝が落ちている。落差はこちらの方がありそうだ。二本の滝を眺めながら、昼食にした。この日は偶然にも、僕の誕生日だった。覚えていてくれた同行のカメラマン氏が、クーラーボックスから冷酒を取り出して、サプライズの乾杯! なんとも思い出に残る水紀行となった。 帰りは来た道を、そのまま日向見まで戻った。さすが人気の四万温泉である。何組もの観光客とすれ違ったが、登山の格好をしている人はいない。サンダルや革靴、スカートでは、あまりにも無謀である。赤ちゃんを抱っこしたお母さんがいたのには驚いた。
 四万温泉には6つの外湯がある。まずは日向見薬師堂前の「御夢想の湯」で汗を流して、近くの土産物屋で生ビールを一杯。新湯まで歩いて今度は「河原の湯」に浸かり、缶ビールを買い込み、河畔でもう一杯。そろそろ乗車するバス停を探そうと山口まで歩いて、「山口露天風呂」で川風に吹かれながら3本目のビールとともにバスの時間を待った。
(フリーライター/小暮 淳) 



Posted by ちいきしんぶん at 10:16 │2008年・特集記事