社会保険労務士 原 令子 さん |
ねんきん特別便が届き、記録の確認を済ませた後、気になるのが、「いくらもらえるのか」。物価高や公的な負担が増える中、老後に少しでも多くの年金を受け取るにはどうしたらいいのか。公的年金の受け取り額を、増やす方法について、詳しくお伝えします。 |
公的年金は、人により加入している制度が、それぞれ異なります。
自営業の方は、「国民年金」。サラリーマンは、国民年金に「厚生年金」が加わり、
公務員は、国民年金に「共済年金」が加わります。
また、自営業の方は、1階建て、サラリーマン、公務員は2階建てと言われています。
厚生労働省が発表している、年金受け取り額のモデルケースでは、
国民年金だけに40年間加入した場合、ひと月6万6008円。
国民年金と厚生年金に40年間加入した場合は、2つの合計で16万6584円となっています。
(これは、あくまでもモデルケースなので、人によって金額は違います。)
各年金共通の対策 |
【A夫妻のケース】
(図1をご覧ください)
●会社員の夫(44歳)
22歳のときに就職して厚生年金に加入。
これまで、厚生年金、国民年金ともに、加入期間は22年。
定年は60歳で、それまで現在の年金に加入し続けると、
加入期間は38年。
●専業主婦の妻(43歳)
独身時代に勤めていた2年間は厚生年金。
結婚後は、会社員の妻として国民年金に加入。
夫の定年まで加入し続けると、加入期間は36年。
【受け取り額を増やすには】
公的年金を増やすためのキーワードは2つあります。
「国民年金は40年まで延ばせる」と、「厚生年金は70歳まで加入できる」です。
A夫妻のケースで、ご説明します。
「国民年金は40年まで延ばせる」
国民年金は、60歳以後でも、満期の40年になるまで、加入を続けることができます。
加入期間が1年増えると、年金額が年に約2万円増えるのです。
(図2をご覧ください)
例えば、A夫妻の場合、夫が定年まで働くと、夫の加入期間は38年。
妻は、夫の定年まで加入し続けると、36年。その後の60歳までの2年間は、
国民年金に強制加入となるので、加入期間は38年になります。
夫婦ともに、この38年で終わってもいいのですが、40年まで延ばせるので、
あと2年、任意で加入すれば、その分、受け取れる年金も多くなるのです。
「厚生年金は70歳まで加入できる」
(図3をご覧ください)
定年後、フルタイムで働けば、厚生年金に加入することもできます。
70歳まで入ることができ、加入期間が延びる分、年金額も増えます。
また、妻の方も、会社員の妻という立場が延びるので、60歳になるまで、
国民年金の加入が続き、しかも自分で保険料を払う必要はありません。
また、65歳以降も働いて、ある程度収入がある場合、年金の受け取りを遅らせる
「繰り下げ」という方法があります。
「繰り下げ」とは、年金の受け取り開始を遅らせる制度で、基礎年金部分と厚生年金部分を
一緒に遅らせることも、どちらかだけ遅らせることもできます。
1か月遅らせると、もらえるはずだった年金額が、0.7%ずつ割り増しされます。
割り増しは70歳までで、最大42%の増額になります。
ただし、割り増しされても、受け取る年金の総額が多くなるかどうかは、
何歳まで生きるのかによって違ってきます。
国民年金 |
【T夫妻のケース】
(図4をご覧ください)
●自営業の夫(50)
以前、会社勤めをしていた時に入っていた厚生年金が6年。
自営業を初めてから、現在にいたるまで、国民年金に22年8か月加入。
60歳まで、国民年金に加入したとして、年金の受け取り見込額は、
年額82万4400円。
●自営業の妻(50)
厚生年金が4年6か月。国民年金には、21年8か月加入。
60歳まで、国民年金に加入したとして、年金の受け取り見込額は、
年額69万5600円。
【年金を上乗せさせるには】
1階建ての国民年金の上に、上乗せする制度が2つあります。
「付加年金」と「国民年金基金」です。
T夫妻のケースでご説明します。
付加年金
(図5をご覧ください)
付加年金に入れるのは、国民年金だけに加入している方で、
サラリーマンと配偶者は、対象外です。
国民年金保険料に加えて、毎月400円の保険料を納め、65歳以降、年金を受け取るようになったら、
自分の年金に加えて、200円×加入月数分の金額を受け取ることができます。
(図6をご覧ください)
例えば、50歳男性の場合は、60歳までの間に、400円×120か月=4万8000円納めます。
そうすると、200円×120か月=2万4000円を付加年金として受け取ることができるのです。
2年で納めた分を受け取れるため、非常に有利な制度で、夫婦、それぞれが入れます。
国民年金基金
(図7をご覧ください)
付加年金では、金額が少ないため、もう少しまとまった金額を加えたいという方向けに、
「国民年金基金」という制度があります。これも、サラリーマンと配偶者は対象外です。
何口入るかは、必要に応じて選べますが、一口入っている場合についてご説明します。
一口目については、A型とB型の2つ選択肢があります。
どちらも終身年金ですが、A型は、65歳から80歳までの15年間、保証期間というものがついて
います。この期間に亡くなった場合、80歳までは、家族に支給されます。
B型は、保証期間がないタイプで、亡くなった時点で終了します。
(図8をご覧ください)
年齢や性別により違いますが、50歳男性の場合、
納める保険料は、A型が、毎月1万6020円。B型が、毎月1万3780円。
65歳から受け取れるのはともに、年間11万6760円です。
保証期間がある分、A型の方が多く保険料を納めることになっています。
国民年金基金は、付加年金よりも年金額が多く、保険料負担も大きくなりますが、
納めた保険料全額が、社会保険料控除の対象になります。
保険料の金額が大きいほど、所得税を減らす効果も大きくなります。
一度加入したら、60歳まで解約できませんが、
支払いが困難になった場合には、口数を減らすこともできますし、減額することもできます。
また、逆に、2口目、3口目と増やし、受け取る年金額を増やすということもできます。
また、「付加年金」と「国民年金基金」は、どちらにしか入ることはできませんので、
注意してください。
加入については、付加年金は、最寄りの市町村役場の国民年金の窓口、社会保険事務所に。
国民年金基金は、各都道府県の国民年金基金にお問い合わせください。
電話番号は、0120−65−4192です。
専門家からのアドバイス
年金というのは若いときからの積み重ねです。早く準備するほど、有利なことが多いので、
できれば若いうちから検討することをおすすめします。
また、公的年金は、決められた金額を決められた年齢から受け取ると考えがちですが、
自分自身の努力や工夫で、年金額はアップしますので、いろいろな方法を是非検討して欲しいと思います。
(社会保険労務士 原 令子さん)