中国の通常国会に当たる第十一期全国人民代表大会(全人代)第二回会議が、北京の人民大会堂で開幕した。会期は十三日までの予定で、今年の政策方針となる首相の政府活動報告や国家予算などを承認し、法律の制定・改正を行う。
中国は「世界の工場」として目覚ましい発展を遂げてきた。しかし、米国発の金融危機の影響で昨年の国内総生産(GDP)成長率は前年比9・0%と六年ぶりに10%を下回った。
輸出企業が大量倒産し、政府の推計では約二千万人の出稼ぎ労働者が失業して帰郷した。地方から都市部に働きに出る「農民工」と呼ばれる人たちだ。これまで安価で豊富な労働力を武器に経済成長を続けてきたが、一転して失業増という社会不安に見舞われている。経済と社会の安定化に向け、今年は重大な岐路といえよう。
温家宝首相は冒頭の政府活動報告で、今年は「わが国の経済発展にとって最も困難な一年」になると位置づけた。強い危機意識がうかがえる。
さらに首相は、昨年発表した二〇一〇年までの四兆元(約五十八兆円)の景気刺激策や地方債発行などの積極財政で8%程度の成長実現を目指す決意を表明した。
中国にとって、8%成長は雇用や治安維持に必要な防衛ラインとされる。だが、主な輸出先の欧州、米国、日本は軒並みマイナス成長に陥っており、8%の成長には困難を伴おう。
日本と同様、輸出依存度が高い産業構造の転換が急務である。中国政府は内需拡大の一環で昨年来、主に農村部の消費刺激に向け家電購入への財政補てんなどを実施し、徐々に効果が表れてきたとの見方もある。
首相は大型減税も打ち出したが、本格的な内需拡大は容易ではない。時間はかかるかもしれないが、長期的視点で社会保障制度の拡充や農民工の職業訓練強化などが必要だろう。
難局の中で会期中の十日にはチベット動乱から五十年を迎えるほか、十月の建国六十周年など今年は政治的な節目が多い。貧富の格差拡大や官僚腐敗の深刻化などへの社会不満は強く、治安悪化が懸念される。
一方で景気悪化にもかかわらず、国防予算は二十一年連続で二けたの伸び率となった。軍事力増大と内容の不透明さが、国際社会の脅威論を増幅する。
中国の動向は、日本や世界に大きな影響を及ぼす。内政、外交両面で慎重なかじ取りを求めたい。
不就学や環境になじめないブラジル人の子どもたちが通う学校を支えてきた地域の人たちには朗報だろう。文部科学省は、経営に苦しむ無認可のブラジル人学校支援策として、都道府県知事が権限を持つ私立各種学校の認可基準を緩和するよう指導する方針を固めた。
国内のブラジル人学校は十二県に八十八校あり、無認可が八十四校とほとんどを占める(二〇〇七年度)。岡山県内では昨年四月、ブラジル人就労者が県内最多の総社市に中四国・九州地域では初めての学校「エスコーラ・モモタロウ・オカヤマ」が開校し、地元NPO法人が運営に当たっているが、無認可のままだ。
文科省の狙いは、公的助成の対象となる認可校に転換を促すものだ。私立校への自治体の助成は、設置主体が私立学校法上の学校法人や準学校法人であることを条件とする場合が多く、文科省は法人の認可基準も緩和を求めるという。
無認可校の収入は授業料に頼っているが、昨秋以降の不況で保護者の失業などによる退学者が相次いでいる。
「モモタロウ」でも、非正規労働者として働く保護者の失業を受け、一時は生徒が半数以下に激減した。今年からは、親の経済的負担軽減策として一部クラスで授業料を免除する緊急措置をとったため運営が厳しさを増している。文科省の方針は歓迎すべきものだろう。
国内に住む外国人はこの十年間で一・五倍に増え、約二百十五万人。岡山県でも長期滞在する外国人は人口の1%を超え、岡山市は市民七十人に一人が外国人だ。地域社会は人口減少の中で確実に「国際化」が進んでいる。外国からの隣人とどう共生し、支援していけるのか。一人一人が考えたい。
(2009年3月6日掲載)