理解に苦しむこの時期の小沢氏秘書の逮捕 元検事・郷原信郎氏インタビュー
2009年3月6日 ビデオニュース・ドットコム
インタビューズ(2009年03月06日)郷原信郎氏 |
長崎地検の検事時代に自ら政治資金規正法がらみの捜査に携わった経験を持つ郷原氏は、そもそも政治資金規正法は必ずしも実質的な資金の提供者を寄付者として記載することを要求していないことを指摘する。「実際は西松建設がお金を出していることが分かっていても、政治団体から寄付を受けたのであれば、政治資金収支報告書には政治団体の名前を記載しても違反にはならない。政治団体がなんら実態の無いダミー団体で、しかも寄付を受け取った側がその事実を明確に把握していたことが立証されない限り、政治資金規正法違反とは言えないが、実態の無い政治団体はたくさんある。」郷原氏はそう語り、選挙を控えて政治的な影響の大きなこの時期に、あえて野党党首の公設秘書の逮捕にまで踏み切った検察の意図に疑問を呈した。
神保: 小沢氏の秘書の逮捕をどう見るか。
郷原: この事件が本当に政治資金規正法に違反するのか、いくつか問題になる点があると思う。第一に、寄付をした人・団体・企業というのは、何をもって認定するのかという点だ。一般の人には、寄付者というのは資金を出した人が寄付者だと思われているかもしれないが、政治資金規制法では資金の拠出者は必ずしも寄付者とは限らない。寄付という概念は、あくまで自分で政治家や政治団体にお金を渡したり振り込んだりするという行為の主体、これが寄付者だ。それをもし誰かからお金を借りてやっているとか、誰かからお金をもらってやっているということであったとしても、そういう資金の拠出者を寄付者として書くということは、政治資金規正法は要求していない。
神保: つまり実体として誰が出したかでは無くて、その実際にお金を寄付するという行為を書けばいいということか。
郷原: そうだ。今回の場合、仮に西松建設からお金が出ていたとしても、その寄付の名義になっている政治団体が寄付行為者であれば政治資金規正法の虚偽記載にはならない。ただ問題は、その政治団体というのが全くのダミーで実在しない、存在しないペーパーのようなもので実質的な寄付者自体が西松建設であるのに、それを政治団体と記載したということだと、これは記載が違っている虚偽記載だということになる。
問題はそう言えるかどうか。その政治団体に実体があるのかどうかというところが最大の問題になる。
神保: まだ実体はわからないが、会社であればペーパーカンパニーというのは、会社が本当に営業しているかどうかとか、事務所があるのかどうか等で、ある程度判断できるかもしれないが、政治団体に実体があるかどうかは何によって決まるのか、よく分からないところがある。例えば、色々な人からお金を集めて献金するためだけに政治団体を作っていても、政治団体としては実体があると言えなくもない気がする。
政治資金規正法等で、政治団体について何がダミーで何が実体と言えるかの判断基準はあるのか。
郷原: 政治資金規正法上、届けられている政治団体というのはものすごい数がある。何万とあると思う。その中には実体があるのか無いのか、微妙なものが相当あると思う。企業のように企業として活動・事業活動が行われているとか社員が常勤しているとか役員がいるということが政治団体の実在の要件ではなく、政治団体に会則とか規約があって、何らかの政治団体としての活動があって、そして会計も独立しているということがあればダミーではなく、政治団体として実在していると一応言える。そういうものが全く無いペーパー政治団体のようなものであれば、これはダミーということになるが、政治団体の場合、実在しているという要件はかなり緩いと考えていい。
神保: 今日(09年3月5日)あたりの報道では、逮捕された被疑者が西松建設と直接取引きをしていて、お金が西松建設からきたものであることを分かっていたということがしきりに指摘されている。ただ、今のお話では、お金の大本が西松建設から来ていたかどうかはこの法律では問題ではない、ダミーであれば駄目だというお話だった。これはダミーを使って寄付した場合、寄付した側が違法であるということは分かるが、貰った側は相手がダミーかどうかはわからない場合もあるだろう。だとすると、受け取った側もその団体がダミーであることを知っていなければいけないはずだ。小沢氏の秘書が、政治団体がダミーであることを知っていたことを証明するためには、どんな証拠が必要になるか。
郷原: これは実在していない政治団体であるというのをはっきり書いてある文書で書いてあるのを見たとか、そういう説明を受けているということであれば認識ははっきりするが、ダミーであることの認識を立証するのはそう簡単なことではないと思う。
プロフィール
郷原 信郎 ごうはら のぶお(桐蔭横浜大学法科大学院教授兼コンプライアンス研究センター長)
1955年島根県生まれ。1977年東京大学理学部卒業。三井鉱山勤務を経て、1980年司法試験合格。1983年検事任官。公正取引委員会事務局審査部付検事、東京地検検事、広島地検特別刑事部長、法務省法務総合研究所研究官、長崎地検次席検事、東京地検検事(八王子支部
副部長)などを経て2003年より現職。著書に「思考停止社会〜「遵守」に蝕まれる日本」、「「法令遵守」が日本を滅ぼす」など。
インタビュアー/プロフィール
神保 哲生 じんぼう てつお(ビデオニュース・ドットコム代表/ビデオジャーナリスト)
コロンビア大学ジャーナリズム大学院修了。AP通信社記者を経て99年『ビデオニュース・ドットコム』を設立。著書に『ツバル-温暖化に沈む国』、『地雷リポート』など。専門は地球環境問題と国際政治。05年より立命館大学産業社会学部教授を兼務。
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。