年次改革要望書
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2009/02/12 14:59 UTC 版)
年次改革要望書(ねんじかいかくようぼうしょ)は、日本政府と米国政府が両国の経済発展のために改善が必要と考える相手国の規制や制度の問題点についてまとめた文書で、毎年日米両政府間で交換される。「成長のための日米経済パートナーシップ」の一環としてなされる「日米規制改革および競争政策イニシアティブ」に基づきまとめられる書類であり、正式には「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく要望書」(The U.S.-Japan Regulatory Reform and Competition Policy Initiative)という。なお、交換後は、それぞれの要望書について作業部会、上級会合の場で日米間で議論のち、日米共同の報告書をとりまとめることとなる。
目次 |
概要
アメリカ政府の年次改革要望書
最初の「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく要望書」(年次改革要望書)が作成されたのは平成13年(2001年)であるが、これは先行する「日本とアメリカ合衆国との間の規制緩和に関する対話に基づく双方の要望書」の枠組みが現行のイニシアティブの形式に整えられたことによる。
由来をたどれば、1993年(平成5年)7月の宮澤喜一首相とビル・クリントン米大統領との会談で決まったものとされている。『拒否できない日本』によれば、最初の要望書は1994年(平成6年)であった[1]。
双方の要望書は両国政府によって公開されており、日本から米国への要望書については、外務省のウェブサイトにおいて公開されている。同様に、米国から日本への要望書については、駐日米国大使館のウェブサイトに日本語訳されたものが公開されている(外部リンクの節を参照) 。日本側からアメリカ側への要望が実現しなかった例は、BSE(牛海綿状脳症)に関しての全頭検査の実施などである。
米国側からの要望が施策として実現した例としては、建築基準法の改正や法科大学院の設置の実現、独占禁止法の強化と運用の厳密化、郵政民営化といったものが挙げられる。米国政府からの要望で実現していない項目としては、再販制度・特殊指定の廃止・ホワイトカラーエグゼンプションが挙げられるが、年次要望改革書では引き続き取り上げられている。
欧州連合(EU)の年次改革要望書
欧州でも日本との間に年次改革要望書というものが存在する。欧州から日本への要望内容は米国の例と酷似している。
欧州連合欧州委員会は12月13日、日本の郵政民営化や金融サービスを柱とした規制改革に関する10分野の対日要求を発表した。郵政民営化では、民間企業と同じ競争条件になるよう「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命保険」の早期上場を要求。両社の完全民営化までは「新事業への拡大を厳密に制限する」よう要望。はがきなど信書便の段階的な事業開放も求めた。金融庁が銀証分離の見直しを決めたことは評価。医薬品の審査・承認にかかる時間の短縮要求も盛り込んだ。その他の分野は投資、政府調達、情報・通信、運輸、食品など。
アメリカ政府による日本改造
関岡英之は年次改革要望書はアメリカ政府による日本改造という観点から注目し、アメリカによる日本への年次改革要望書の性格は、アメリカの国益の追求という点で一貫しており、その中には日本の国益に反するものも多く含まれているとしている。衆議院議員小泉龍司は、2005年(平成17年)5月31日の郵政民営化に関する特別委員会において、要望書について「内政干渉と思われるぐらいきめ細かく、米国の要望として書かれている」と述べている[2]。
郵政民営化は郵便貯金や簡易保険などの国民の財産を外資に売り渡す行為であるとし、また三角合併解禁については時価総額が大きい外資が日本大手企業を買収して傘下に置き易くすることを容易化する行為として、外資への売国的行為とする意見がある。
年次改革要望書で言及されている医療改革は、外資系保険を利することが目的となる一方で患者の医療費負担増大や医療報酬減額が医療崩壊に繋がっていると指摘する意見がある。
1999年の労働者派遣法改正により日雇い派遣が原則解禁となったが、雇用機会が拡大する一方で労働環境の不安定化という社会問題を生み出した。
年次改革要望書に関する国務大臣の認識の一例
竹中平蔵郵政民営化担当相は2004年10月19日の衆議院予算委員会で小泉俊明の「(年次改革要望書を)御存じですね」という質問に対し、「(年次改革要望書の存在を)存じ上げております」と答弁した[3]。
2005年6月7日の衆議院郵政民営化特別委員会では、城内実の「郵政について日本政府は米国と過去1年間に何回協議をしたか」、「米国の対日要求で拒否したものはあるか」という質問に対して、竹中大臣は米国と17回協議したことを認めるも、対日要求についての具体的言及は避けた[4][5]。
郵政法案の審議が大詰めを迎えた2005年8月2日の参議院郵政民営化に関する特別委員会で櫻井充の「(年次改革要望書に)米国アメリカの要望として日本における郵政民営化について書かれている。(中略)国民のための改正なのか、米国の意向を受けた改正なのか分からない」という質問に対し、竹中大臣は「米国がそういうことを言い出す前から小泉総理は(もう十年二十年)ずっと郵政民営化を言っておられる[6]。米国はどういう意図で言っておられるか私は知りませんが、これは国のためにやっております。このまあ一年二年ですね、わき目も振らず一生懸命国内の調整やっておりまして、米国のそういう報告書(年次改革要望書)、見たこともありません。私たちは年次改革要望書とは全く関係なく、国益のために、将来のために民営化を議論している」と述べた[7]。 「かんぽの宿」の入札先を見ると、外資が大半を占める。鳩山総務大臣の命令を西川社長は当初、断った。最初に大臣に提出された入札情報は、とても入札とは言い難い情報しか出さなかった。
日本の内政との密接な関係
- 1997年 独占禁止法改正・持株会社の解禁
- 1998年 大規模小売店舗法廃止、大規模小売店舗立地法成立(平成12年(2000年)施行)、建築基準法改正
- 1999年 労働者派遣法の改正、人材派遣の自由化
- 2002年 健康保険において本人3割負担を導入
- 2003年 郵政事業庁廃止、日本郵政公社成立
- 2004年 法科大学院の設置と司法試験制度変更
- 2005年 日本道路公団解散、分割民営化、新会社法成立
- 2007年 新会社法の中の三角合併制度が施行
報道で年次改革要望書がほとんど扱われていないことについて
関岡英之、城内実などから は、以下の点から、年次改革要望書に関する報道が広く国民に充分になされていないのが事実だという意見がある。
- 建築基準法の改正提言には、アメリカ政府の介在がひとことも書かれておらず、法改正の新聞報道でもいっさい触れられていない([1]、50頁)。
- 年次改革要望書の全文が日本のマスメディアで公表されたことが無かった[8]([1]、54頁) 。
- 郵政民営化をはじめとする構造改革の真相を国民が知ることとなったら暴動が起きかねないので、マスコミ対策は用意周到になされていた。郵政民営化に反対する政治評論家森田実が、ある時点からテレビ局に出演できなくなった[9]。
- 『しんぶん赤旗』・一部夕刊紙以外の主要マスコミでは『年次改革要望書』が発表された事実そのものの報道もなされない。国会議員が国会で問題にしても、なぜか全国紙やテレビ局の政治部記者からは一件の取材もない[10]。
関連項目
- 日米構造協議
- アメリカ合衆国51番目の州
- 独占禁止法
- 再販売価格維持契約
- 司法制度改革
- 行政改革
- 聖域なき構造改革
- 郵政民営化
- 規制緩和
- 日米同盟→日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約
- 関岡英之
脚注
- ^ a b c 関岡英之 『拒否できない日本 アメリカの日本改造が進んでいる』(文藝春秋 2004年4月21日 ) ISBN 978-4166603763
- ^ 第162回国会 衆議院 郵政民営化に関する特別委員会 第5号 平成17年(2005年)5月31日(議事録)
- ^ 第161回国会 衆議院 予算委員会 第3号 平成16年(2004年)10月19日(議事録)
- ^ 第162回国会 衆議院 郵政民営化に関する特別委員会 第9号 平成17年(2005年)6月7日(議事録)
- ^ 「城内実の視点!(1)」(社団法人「逓信研究会」機関誌 逓信『かがやき耀』 2007年3月号)
- ^ 小泉純一郎内閣総理大臣は年次改革要望書が始まる1994年より前の1979年から郵政三事業の民営化を主張している。
- ^ 第162回国会 参議院 郵政民営化に関する特別委員会 第12号 平成17年(2005年)8月2日(議事録)
- ^ 2008年10月26日のフジテレビ系列報道番組「サキヨミ」で年次改革要望書が報道されている。
- ^ 「城内実の視点!(4)「改革」にだまされるな!」(社団法人「逓信研究会」機関誌 逓信『かがやき耀』 2007年6月号)
- ^ 「黙殺される米国の「日本改造計画」米国「年次改革要望書」の正体 小泉政権の”アンチョコ”は、米国による「内政干渉」通達文、この文書の”命令”が郵政民営化を強行した!」(『財界展望』平成18年4月号)
外部リンク
- アメリカ政府から日本政府への要望書(仮和訳は在日米国大使館による)
- 日本政府からアメリカ政府への要望書(仮英訳は日本外務省による)
- 規制改革及び競争政策イニシアティブ(英語) - 米国通商代表部
- 規制改革及び競争政策イニシアティブ - 日本国外務省
日米規制緩和
- 日米規制緩和対話(英語) - Internet Archive(米国通商代表部)
- 規制撤廃および競争政策に関する日米間の強化されたイニシアティブに基づく日本政府への米国政府年次要望書(2000年) - 駐日米国大使館
- 日本における規制撤廃、競争政策、透明性及びその他の政府慣行に関する日本政府への米国政府要望書(1999年) - Internet Archive(駐日米国大使館)
- 日本における規制撤廃、競争政策、透明性及びその他の政府慣行に関する日本政府への米国政府要望書(1998年) - 駐日米国大使館
- 日米規制緩和対話 - 外務省
- 日米間の規制改革及び競争政策イニシアティブに関する日米両首脳への第七回報告書 (2008年7月5日) - 外務省
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