県が医師確保のために設置していた医学生向けの奨学金制度で、約15年にわたって事務処理を怠り、410万円が未回収になっていることが5日、分かった。県では先月、看護師らを対象にした奨学金制度において、ずさんな事務処理をした結果、約4800万円の未回収が発覚したばかり。県は、これらの奨学金の問題にかかわった計14人(現職のみ)を戒告、訓告処分とした。相次ぐ不祥事の発覚と、判明後も速やかに公表をしない県の姿勢に批判が集まっている。【小坂剛志】
県医療対策課によると、約15年にわたって未処理だったのは14人分で計5136万円。うち3人は県内の医療機関で勤務した期間が規定より短かったため、計410万円を返還してもらう必要があった。410万円は既に時効が過ぎているが、「当事者に事情を説明して、返還をお願いしている」という。
医学生を対象にした奨学金制度は1969年度~91年度まで実施され、月5万円を最大7年間で貸し付け、県が指定する県内の医療機関などで一定期間の勤務をすれば、返還が免除される仕組みとなっている。
事務を担当する医療対策課には貸し付けが終わっていた91年度以降も、対象者の勤務状況の把握と、県外などで勤務する対象者への返還請求を行う必要があったが、94年度からその業務を行った形跡はなく、未処理のまま放置されていた。
県人事課は5日、看護師らを対象にした奨学金制度で01年度~06年度に貸付金の管理を放置したなどとして、健康福祉部の出先機関に勤務する男性主任(37)▽環境生活部の男性主任(40)を同日付で戒告処分とした。また、今回の医学生を対象とした問題も含め、管理監督責任を問うかたちで、当時の健康福祉部長など12人を訓告処分とした。対象者は30人だったが、18人は退職していた。
ずさんな事務処理は昨年6月、医療対策課の職員が長年にわたって同額の債権があることに気づき、調査して判明。昨年8月には、山根成二健康福祉部長に報告があったが「全容を解明してから」という判断で、知事にも報告せずに調査を続けた。
先月19日、看護師らを対象にした奨学金制度でずさんな事務処理があったことが発覚。当時の会見では医学生向けの奨学金制度でも同様の問題があることにはふれなかったが、先月23日の定例会見で溝口善兵衛知事の「来週にも整理をして説明する」という言葉を受けて、ようやく知事に報告した。会見で、山根部長は「県民に不信感を与えて申し訳ない。知事に報告が遅れたことも反省したい」と話した。
==============
■視点
相次ぐ不祥事の発覚と、県民への迅速な説明に欠けた県の姿勢には、不信感が募るばかりだ。溝口知事が「私が先頭に立って行政の透明化に努めていく」と言っても、その対応を考えると説得力を持たない。
看護師らを対象にした奨学金制度におけるずさんな処理が発覚したのは先月19日。県は4年にわたって、この問題を公表していなかった。同月23日の定例会見でも批判が集まり、溝口知事は「私も基本的に行政を透明にして、わかりやすくする必要があると考えている」と述べた。
だが翌24日。健康福祉部長に、医学生を対象とした奨学金制度でも末処理分があると報告を受けた溝口知事は「事実関係をよく明らかにしてから公表しよう」という前回と同じ選択をする。そこからは「一刻も早く県民への説明責任を果たそう」という“危機感”は感じられなかった。
溝口知事に問いたいのは、説明責任をどう考えるかということだ。一連の不祥事が発覚した後の溝口知事の姿勢には、スピードも透明性も感じられず、県民の方を向いた県政とは到底言い難い。【小坂剛志】
毎日新聞 2009年3月6日 地方版